幕間の三 C-8
「映っている人間、が岩永では無いことは確かだが。まあ解析待ちだが、おそらくはAだろう。しかも映像は明らかに誰かの指示、或いはマニュアルに従って【執行】している。ただの快楽殺人犯、と言う認識は改めなきゃならんかもしれん」
「……そうですか?私はその認識から変化ありませんけど……うぷっ……思い出しただけで吐き気が……」
「話題を変えようか。岩永の母親、岩永浩子の話しに戻そう。いや少し違うか。良子、君は彼女の事件を担当したのは、何を隠そう新人時代のナギさん、草薙警部だったって知ってたか?」
「ええっ?そんな事、聞いて無いですよ。いえ事件自体は知ってましたけど、担当者は別の刑事の名前になってたと……」
「そう、書類上はな。だがこれはナギさんから俺が直接聞いた話しだ。自分が初めて担当した事件、それで容疑者を自身の技量不足で死なせてしまい、犠牲者も出してしまった。それを当時の先輩が庇い立てしてくれたのだと」
「そう、だったんですね……。警部、私には何も言ってくれてなかったんですね……私、相棒失格、だったのかな?」
「泣くな。秘密にしていたのは、君を巻き込みたくなかったからじゃ無いのか?」
「……巻き込む?」
「ああ。俺はなナギさんが殺人鬼、稀代の連続殺人犯だなんて思っちゃいない。が、完全無欠の無実だとも考えてない」
「……そう考えている、理屈は分かります。逮捕されてからの警部の行動が、明らかに不審すぎますから」
「が、納得はいかない、か。君はそれでいい。俺にしても記憶にあるナギさんは絵に描いたような、まさに典型的なお巡りさん、正義の人だったからな」
「………………」
「うん、今日はもうやめよう。少し冷静さを欠き、感情的になり過ぎた。君はこれからどうする?俺はもう帰って寝るだけだが……」
「私は本庁に戻ってもう一度情報を見直してみようかと、なんだか家に戻っても眠れる気がしないので……」
「……それはダメだ。本日、業務は全て終了。君を一人、本庁で仕事させて自分は安眠を貪る、そんな碌でも無い上司にしたいのか?」
「しかしですね……」
「しかしもカカシもない。今夜は俺の家に泊まっていけ。寝られないって言うなら付き合ってやる」
「何ですか、それは。変な噂が経ちますよ?一応、この件が片付くまでは秘密にしておこうって、決めてましたよね?」




