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幕間の三 C-4

 辛うじて、黒く変色した表皮の一部に、赤みをとどめることで、自らが『リンゴ』であったことを主張しているかのような姿を、僕に見せていた。

 寂寥感。美しきものが老いて朽ち果てていくその様を一言で言い表すのに、これ以上のものは見つけられない。僕はひょっとしてこの時、泣いていたのかもしれない。

 そんなある日、何時ものようにリンゴとバナナのスケッチをしていたところに、学校から帰ってきた姉が、何の前触れなく僕の部屋に入ってきた。

 一瞬、時間が止まるのを感じた。姉は無言のまま、僕の描いた幾冊かのスケッチブックを手に取り、一頁、一頁、丁寧に眺めたあと、僕を抱き締めた。

 その腕が、震えているのを感じた。多分、泣いているのだと思った。


『……なに、泣いてるの?お姉ちゃん』


 僕は、問いかけた。なぜ泣いているのか、この時はよく分からなかった。


『ごめんねぇ。本当に、ごめんねぇ~!』


 僕の言葉に、姉は声をあげて泣きはじめた。もう一人にしないから、お姉ちゃんが一緒だから。

 姉はそう言いながら、僕を強く抱き締めた。僕は訳がわからないまま、その時はただ、


『うん』


とだけ、答えていた。僕はこの時、泣いていたのだろうか。


…………………………


「反応、ありましたね。選んだ二つが二つとも」


「ああ、そうだな。まあ一つは確実に反応があるはずだとは思ったが」


「自信が、おありだったんですね」


「まあな。あいつが無視できるはずは、ないからな。なんせ……」


「自身の母親のこと、だからですか?それって本当なんですか」


「間違いない。お前は会ったことないだろうし、葬式にも出てないからな。分からないのも無理はないが」


…………………………


「……昭和生まれ最後の大女優、岩永浩子はあいつの実の母親だ。本人曰く、世間的には養子ということになっている、らしいがな」


「で、この手記の一つが彼女が書いたものであると、警視はおっしゃるわけですね」


「二人の時は警視はよせ」


「……潤一郎、っていまだに慣れないんですけど。仕事中ですから敬語はまあ良いのですが」


「呼び方なんかどうでもいい、とか言うやつはいるが俺には俺のこだわりがある、良子。それにどうせこの事件が解決、あるいは終結したら、俺は警視じゃなくなる。呼び慣らしておくほうがいいと思うが」


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