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幕間の三 C-2

 二人から随分と歳が離れていたせいか、一時期本気で僕を自閉症か何かだと本気で案じていたが、正直言って僕に取ってはどうでもいい事だった。

 いや、それこそが僕の閉鎖的思考の、或いは症状の顕在化だったかもしれないが、専門家でもないのに独りで病気云々思い悩むのは、それこそ『病院行けよ』と忠告するところだろう。他人とあまり関わりを持ちたくない、僕としても。

 別に人に構われるのを厭わしく思ってるわけじゃない。僕自身、何かと世話を焼いてくれる姉に甘えていた部分は、あったと思う。

 僕と両親との間に、決定的な亀裂が生じなかったのはそんな姉と、鈍感でマイペースな両親の気質のお陰だろう。


「この家が居づらくなったら、何時でもお姉ちゃんとこ来ていいからね」


 それが姉の、家を出るとき僕だけに告げた言葉だった。が、それが僕のためじゃなく、姉自身の為だったのに気付くのに、そう長い時間はかからなかった。

 共依存。つい、かまったり世話を焼く存在に依存してしまっている。


「この子は私がいなきゃ」


 と言うふうに、自身の存在価値を僕という存在に投影して……っと、自己診断は禁物。それこそただの妄想、憶測。

 兄とは、あまり思い出はない。

 両親の愛情と期待を一身に受け、その事に特別疑問を覚えず、与えられたレールの上を、定められた時刻表通りの日常を、完璧にこなす。

 そんな姿を、少し離れた場所から僕と姉は眺めていた。

 特に印象のない兄だが、唯一不思議に思うことが、『音楽の道』に進んだこと。

 昔は兄も僕と同様、絵を描いていた。姉が先に音楽への道に進んだとき、兄も最初は遊び半分にバイオリンを弾き始めたのだと思う。

 何度か演奏を聴かされたが、技術的に言えば、


「音楽より絵の方が向いてるんじゃね?」


と、子供心に思った。

 けれど、楽しそうだった。特に姉の歌声に合わせて、下手クソなバイオリンをギコギコ、不快な不協和音を出しながら掻き鳴らす兄の表情は、とても無邪気で、清々しかった。

 多分、これが僕が覚えた最初の『嫉妬』だった。


 それから…………。

 僕は僕の世界に浸り込むようになった。ただただ、面白くもない絵を描いていた。

 主に風景と静物画で基本、今も描く題材にこだわりはない。

 変化しないものをずっと描き続けること。それが楽しいと思ったし、何故だかよく分からない、安心感を覚えていた。


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