幕間の三【とある美術教師の回想】〜或いは未完成恋愛狂詩曲〜 C-1
中学時代の美術教師が、僕の絵を見てこういった。
「技術は百点。芸術性はゼロ点ね」
今思えば、それがあの人を好きになった瞬間かも知れない。それは何気無いただの風景画。授業で描けと言われたから描いただけの、つまらない色褪せた学校の景色。
写実、と言えば聞こえはいいが、それならば写真でいい。まあその程度のものだと、僕も実際そう思う。
絵を描くのが嫌いだったら、授業で美術なんか選択しない。絵を描くばかりが授業内容でもないが、割合は高い。
別に専門でもない教師にしてみれば、かなりコスパも良かろうと。彫刻やらせて怪我をされることもなく、粘土を与えたのち細かくちぎられ砲弾に変化。座席間戦争も起きることはない。
とまあ、そんな捻くれた僕の性格を見抜いてか、そんな風な感想を言ったのはあの人が初めてだった。
……何の因果かよくわからないけど、僕はそれなりに裕福な家庭に生まれたようだった。
父は日本画家。母は生け花の先生。年の離れた兄と姉はそれぞれ音楽の道に進み、兄はバイオリニスト、姉はソプラノ歌手。
端から見れば絵に描いたような芸術家一家だろうけれど、僕から見れば社会不適応者のコミュニティ。
父は有名な日本画家の孫で、よく言えば自身の父が継がなかった祖父の後を継いだ、と言うことになるだろうか。
日本画家、など評しているが僕から言わせれば実際のところ、美術品のバイヤーとして成功した祖父の財産を、自己批判なく食い潰しているだけのゴミ。
まあ多少は売れているようだから、その生業にケチをつけられる立場に、僕はない。所詮は養われているだけの苦労知らずの子供、だったのだから。
母の実家は華道の家元らしいが、末っ子らしく本家を継ぐこともなく、父と知り合い、結婚。
小さな生け花教室を開いて、近所の奥さま連中を相手に日々、井戸端会議の議長として、場を支配することに余念がない。
兄と姉は、まだいい。兄は楽団、姉はとあるボーカルユニットに入り、近々メジャーデビューと言う、それぞれ独立した道を歩もうとしている。
それが栄光への道か、苦難と挫折の棘道か、それは彼らが決めること。僕が気にかけることじゃない。
が最近、大学を卒業すると同時に独り暮らしを始めた姉が、やたらと僕になつき、構ってくるようになった。
以前から僕が家族、特に両親に対しての隔意を隠そうともしないことを心配してか、何かと世話を妬いてくれてはいた。




