第三話。3-15
「生憎、俺はそこまで人間できちゃいないな。自分の中の正義を絶対のものにできるほどには。で、やっぱりいると思うか?この事件にもパラディン、オラクルが」
「いる、と設定するなら少なくとも法の側、つまりは警察内部か政治権力側に何らかの動き、或いは【絶対正義】を遂行し得る、カリスマ的存在が現れているんじゃないか?」
パラディンはあくまでも、表の存在。顔を晒し姿を見せて、民衆の英雄的存在として世論を動かすものでなければならない。勿論、それは小説の中の話であって、【計画】の中の位置付けでは、どの様な定義づけがなされているのか、そこまでは私にはわからない。
「正直言って、この事件においてパラディンは個人的な存在というよりは、もっと概念的存在【英雄待望論】とか、救世主を求める民衆の【願望】がそれにあたるのではと考えている」
「そして、その【救世主】の誕生を煽る預言者、オラクルの暗躍する余地がそこに生まれる。そう言うことか」
それも、小説におけるオラクルの役目ではある。警察は、いや和泉はどの程度【計画】について把握しているのだろうか?協力しているとはいえ、やはり一般人の私には話せないことなのだろうが、やはり協力するためには多少の情報開示はして欲しいところだ。
「あのですね、さっきから二人で何の話してんですかね?はっきり言って捜査の話してるのか、新作小説のネタ合わせしてるのか、チンプンカンプンなんですけど?」
無論、捜査協力の一環としてだが、確かにどうやら思考が未だ見ぬ犯人、起きてもいない犯罪計画に傾きすぎていた様だ。
「うん、まあ今日のところはこんなものか。少し頭を冷やしたい。薬師寺、ベイブリッジ方面へ」
「えっ?いやですよ、そんなベタなところ。頭を冷やすなら百万ドルの夜景、高層ビル群のネオンを観ながらテクノ系かユーロビートをですね〜」
「お前の趣味は聞いてない。一服するんだよ、いつもそこで。ついでに言えばこの代車、禁煙車だから」
……運転手に言ってなかったのか。まあ彼女はタバコは吸わなそうだったからな。
「……やっぱり二人、お似合いなんじゃないか?」
と、つい口に出してしまった。
口は災いの元、しまったと後悔しても吐いた言葉は消すことができない。次の瞬間、車が唸り声を上げる様な急加速と共に疾走し始める。




