第一話。1-5
大体、ここに来て私はAに取材をさせて欲しい、と話したところケラケラと自身の武勇伝とやらを詳しく、さらには身振り手振りを混ぜて劇的に語ってくれた。
3人の看守たちは、ひょっとすると彼の【話し】を聞くのが初めてだったのかもしれない。若い看守などは如何にも気持ち悪く、吐き気をもようする様な彼の一人舞台に、目と表情で怒りを露わにしていたし、他の二人も大なり小なり、嫌悪感を隠せずにいた。
予め、彼に関する情報を得ていた私だけが一見、嫌悪感、心の動揺もなく、半ば意識して無表情、無関心さを際立たせる様に、彼の演技力を観察していた。
「……ポルノ小説?」
Aが私に問いを投げる様に言葉を発した。
「ああ、そう言った。よく書けてるよ、あれは。そうだな、実際に起きた事件じゃなければ、私も興奮したかもな……」
「おい!ブンヤ!そう言う挑発的な受け答えは……」
そう言って、年長の男が私を制する様に近づいてきた。私の耳元で、あまり不用意な発言を繰り返すなら、取材を打ち切ってもいいんだぞ?あんたの態度次第じゃ、今後の取材活動とやらにも、此方としては協力しかねるが……。
私も小声で答える。
……彼から新しい情報を引き出すためです。もう少しだけ、私に任せてください…それが終われば今日のところは引き上げますから、あなた方に迷惑はかけません、と。
「おい、何二人でこそこそ話してんだよ、【俺】を無視して……」
……ほら、彼は乗ってきました。
私はそう言って看守を下がらせた。
「いや、すまない。失礼をした。話しを続けよう。君がその、君の言う武勇伝に、私が関心ないかの様に言っていたがそれは違う。その点は一応、訂正しておいていただきたい」
私は予め、君の手記を隅々に読ませていただいた。だからこそ、君の語りも冷静でいられたし、取材対象として君を冷静に受け止めることができた。
「感想に関しては、私は嘘や上部だけの言葉を飾って、媚びへつらう様な行いは、相手を侮辱している現れだと考えているし、率直な感想を述べただけだ」
不快に思ったのなら謝罪しよう。
「……いや、いい。謝罪は必要ない。流石に【俺】の話を読んで、ポルノだと抜かしやがったのはあんたが初めてだったんでね……」
自身を指す一人称が【僕】から俺に変わっている。