第三話。3-12
「……そうした、退屈を紛らわせるためのある種、思考実験みたいなものか」
そう言う理由づけも分からないでもない。が果たして本当にそうだろうか? 少なくともこのレポートはある種の犯罪、死刑囚との関わりの中で発見された証拠の類、新事実ではないのか?
その点を無視してただのちょっと工夫を凝らした日記、と断ずるのはどうかと。
「……或いは、その内容自体が実は模倣して書かれたもので、オリジナルは別にある、とか?」
そこへ唐突に薬師寺が会話に入ってきた。なるほどな、このページを一枚一枚プリントアウトしたのは、どうやら彼女のようだ。
聞く限りにおいては、随分と発想の飛躍にも思えるが……
「……何故、そう思ったんですか?」
「いえ、警視にも意見したんですけどね〜。それに書かれているもの全て、実は模倣なんじゃないかと、思ったんですよ。私は」
彼女の考えは以下の通りである。先ず、ページそのものにはこれらの記述が何時、誰によって書かれたものであるのかが不明であること。それを見る限りにおいては、本当に一部の界隈で都市伝説的に囁かれている闇サイト、それが実在する証拠とはなり得ないこと。
「ネットの検索には引っかからないのが謎、と言っても元々ネット上に【存在しない】ものなら見つけようがないわけですし……」
「が、類似する内容のものもヒットしないとなると、それはそれでおかしな話しだろうがとな、俺は返したわけだが……」
和泉が言葉を挟む。どちらも一長一短、一理もあるし難点も同様にあるように思えた。がただし……
「警察の証拠資料のいくつかの中に、一般には公開されてない【類似の資料】がある、と言うわけだな」
例えば、私の書いたオリジナルに類似した、テロの計画書などがそれに当たるわけだが、私はその【原文】を見てはいない。
「そう言えば、お前の書いたものによく似ている、とは言ったが見せたことはなかったか」
「別に構わんよ。犯罪に関わることだから、見せられないものもあるだろう。まあわざわざ、私に【手書き】させたオリジナルの【小説】の方をAに手土産として持って行かされる、ことになるとは思わなかったが?」
つまりは、そう言うことである。私が何故、【草薙啓一の手書きの文章】を入手できたかどうかと言う、答え合わせ。全ては和泉の考え、発案によるものである。




