第三話。3-7
……既に発生している【事件】に関わりあるものは除外している、和泉はそう言いながら中身を取り出し、その内の半分ほどを私に回してきた。
「……あのう〜私も一つ、よろしいですか?」
「なんだ?突然……」
和泉がぶっきらぼうに答える。
「いえ、あの岩永さんって、ホントにあの【草薙啓一】何ですか?小説家の……」
ああ、店内で和泉が口を滑らした事かと、私は理解した。
「……私は別に小説家になったつもりは無いがね。学生時代、そういうペンネームで作家の真似事をしていたことがある、その程度ですよ」
もう、10年以上昔のことである。それが今更になってこんな面倒ごとに巻き込まれることになるとは……いやはや、人生という奴は……
「……小説より奇なり、か。まあ中々、模倣しがいのある、スリリングな小説だったことは認めるよ、お前の書いた小説。最初の読者の一人としてね」
手元のコピー用紙に目を落としながら、和泉がポツリと呟きを漏らす。何でそのままデビューを目指さなかったんだ?と。
「向いてない、と思っていたよ。当時はね、人に言われた物、流行り物・望まれるものを書くっていうのがね、どうしても出来なかった」
だが然し、人間というのは不思議なもので、必要な技能・知識という奴は自然と身につくという。
なんだかんだ言っても結局、人に望まれる物、いわゆる世の流行り廃り、トレンドをネタに記事を書き今日、文筆業で飯を食っているという事実。それが私という存在を如実に語っている。
「まあ、若かったよな、あの頃は。俺にはこんな俗なものは書けない、もっと凄いものが描けるんだって」
「確かに、お前は変な奴だったよ。今は少しマシにはなったかな。世間を知って丸くなった、なんてことはないがまあ、付き合いやすくはなったよ」
そうか、私はそんな変な奴だったのか。少し自重気味に笑ってしまった。
「まあそれはいいとして、何か気になる部分あるか?それの中に」
和泉が私を急かすようにいう。実際のところ、私はそのサイトの内容とやらには余り興味は無かった。大体は想像できる、と。ましてや、事件に関係ないものを見たところで、所詮は出来の悪い小説崩れか妄想めいた手記の類、その寄せ集め、と言った程度だろうと。
「ふむ。コレはまた……恋愛小説、か?」




