第三話。3-2
「おい、あんたらシンジの知り合いか?」
ほぼ、たこ焼きに掛かりきりで、我々からは後ろ姿しか見えていなかった大将が、不意に声をかけてきた。
……シンジ、それはAの実名である。
大将は、我々からの確認を待たず、調理場の棚から発泡スチロール製の容器を二つ取り出して、慣れた手つきで焼きそばと、たこ焼きを盛り始めた。
「おい、親父。シンジ君の知り合いって、アンタらひょっとして……」
その言葉を聞いた和泉が、3代目に険しい視線を向けた。自分達が警察関係の人間であると気がついたのだろう、3代目の言葉を制する様に、和泉は軽く首を左右に振る。
店内、座敷席にいた団体客は既に退店していたが、カウンター席には数名の客がいた。その客らは特に気づいた様子はなく、食事と談笑を続けていた。
「はいよ、持ってきな。あいつ、元気にやってるかい?」
大将が私に声を掛けてきた。焼きそばとたこ焼きの入ったビニール袋を差し出しながら、
「ここ何年も顔出しちゃいねえが、たまにはうちに食いに来いって、伝えてくれるかい?」
大将はもちろん知っているのだろう。シンジこと殺人鬼Aがここに直接訪れることはもう無いことを。当然、知り合いであろう3代目も。それを知らないものが聞けばただの世間話風に聞こえる様、そう言っているのだと。
「ああ、伝えておきます。お代は……」
「いらねぇよ、そんなの。シンジにつけとく、いつもの事さ。時々アンタらみたいな知り合いを寄越すのがなあ」
結構、溜まってるんだがな、ツケ。そう言いながら、大将は厨房の奥へと消えていった。
「あっ!ちょっともう少しお話を……」
そう声を上げたのは薬師寺だった。
「おい、会計終わったんだろ?いくぞ。ごちそうさん」
「ああ、そうだな。ありがとう、また来るよ3代目」
私はそう和泉と3代目に声をかけて、彼に押される様に店を出されている薬師寺達の後を追う。後ろからありがとうございました〜と言う3代目の声を聞きながら、私は店を後にした。
「……店に入る前に言ったはずだよな、薬師寺。ここでは仕事関係の話しは基本なしで、って」
酒が入っているせいか、和泉はやや低くドスの効いた小声を薬師寺の耳元で囁いていた。




