幕間のニ B-7
「……先ずは、下書きをしてみた、とか?」
「それなら尚更、あれがガイシャの遺書だった、という可能性はなくなるな。法的作法に則った遺言状の作成ならともかく、ただの遺書に下書きも、誤字脱字の訂正も必要ないからな」
まあ、それは私の主観であろう。よほど強い思いを抱いた、神経質な人物なら、遺書を何度も書き直したり、下書きをするかもしれない。
勿論、ここまでの段階ではこの案件が『事件』であると言う確証はなく、ただ『自殺』の可能性を潰した『不審死』でしかない。
「小説の下書きにしても、パソコンの扱いになれているものなら、普通パソコンで下書きするんじゃないか?」
「……確かに」
新米はややうつむき加減で、顎に手をやり考え込んでいるようだ。
つくづく、しぐさが古くさくアナログだ。そのうち、『謎は全て解けたっ!』と、叫び出しかねない。
「そして、決定的なのは、あの作品を書いたのが本当にガイシャ本人なのか、このファイルをみる限り、その確証が得られてないことだ」
「……あっ! 確かにその通りですね。あの原稿の上に、倒れ込むように亡くなっていたので、死の直前まで書いていたものだとばっかり……」
確かに、あの現場の状況だと自然、そう考える。それでもやはり、私には彼は『自殺』したのではないかと言う、最初の印象から抜け出せないでいる。
「まあ、とりあえず資料をみる限りにおいての私の感想は、こんなところだ」
他にも色々、掘り下げてみたいところは多々あるのだが、何にしても、私がこの捜査課いられるのもあと僅か。これ以上、首を突っ込んで処理済みの案件をほじくり返すもんじゃない。
「……よしっ。わっかりました~!私、もう一度この件、一から洗い直してみますねえ!」
「おいおい、そんなめんどくさいことわざわざ……」
と、私の止めるのも聞かず、さっさと食べかけの弁当を片付け、挨拶もそこそこに飛び出していった。
「……しまった……」
私は、とんでもないミスを犯してしまったのかもしれない。
私の他愛のない疑問が、あの推理ドラマオタク(推定)を、焚き付けてしまった、ということになってしまうのか?




