幕間のニ B-6
こいつの指導官、と言う雑務を引き受けたからこそ、 一応部下としてパートナー扱いしているだけである。
「……お前、私と自分との階級差、ちゃんと自覚してるのか?」
私は今まで、自身の階級を以て他人に対して詰問口調でものを言ったことはない。その事も、私に『仏の』などという枕詞を持った愛称がつけられた、ゆえんの一つ、なのだろう。
「失礼致しました、警部どの。是非ともワタクシのような若輩者に、後学のため警部どのの御深慮、遠望をお聞かせいただければ、幸いであります!」
新米の、妙に芝居かかった最敬礼。そのしぐさを無礼とは思いつつ、可愛らしいとつい、不覚にも感じてしまった。
それが、無意識に表情に表れたのかもしれない。私は知らず知らずに、口許に笑みを浮かべていたようだった。
「……まあ、いい。とりあえず大人しく座っとけ」
「はいっ!」
そう言う新米は、私を見ながら少し笑っていた。……どうやら、私が笑っていたのを見逃さなかったらしい。
「一つ、確認しておくが、この作家はネットを中心に活動していたんだな?」
「はい、確かに。いわゆるネット小説家ってやつですね。パソコンとかケータイとかで小説や詩とかエッセイ書いて、それをネット上にアップするという……」
「うん、現場にあったパソコンや携帯電話に、確かに複数作品の原稿が残っていた、とある。……妙じゃないかね?」
私は新米に問いかける。恐らくは全く疑問に思っていないであろう、あることについて。
「ええっと~、すみません、何が妙なんですか?私にはちょっと、ぴんとこないので……」
そう言いながら、新米は明後日の方向を見ながら頭をかいていた。
……仕種まで古くさい漫画みたいだ。
「現場に残されていた、あの小説。手書きで書かれていたな。何でだ?」
「え? それってそんなに引っ掛かることなんですか?普通、遺書とか遺言とかって、手書きで書くもんなんじゃないんですか?」
確かに、遺書なら普通手書き、 と誰もが想像するだろうが、最近の技術の進歩は、携帯電話やパソコンに書き残したり、果ては自らの自殺行為を撮影し、ネットで生中継すると言う事案まで起きている。
ましてや……
「ガイシャは普段からパソコンや携帯電話で文章を書き慣れている。そんな人間がわざわざ手書きで遺書を書いたり、新作を書いたりするものだろうか?」




