幕間のニ B-5
やっぱり馬鹿だ、こいつ。こいつともうすぐ縁が切れると思うと、心が小躍りして、ステップの一つ二つ踏みたくなる。
「でもって、お前は逆にその彼女を怪しんで、必要以上に事件の事を調べまくったと、そう言うわけだ」
こいつが妙に詳しく、熱心に語るので私はそう推測した。そして、その結果……
「まあ、結局なにも出てこなかったんですけどね……」
「まあ、そう言うことになっちまうんだろうな、お前レベルでは」
私は、ファイルを読み返してみて、一つ引っ掛かりを見つけていたが、新米には盲点になっているようだった。
「……まあ自分がまだまだ未熟だってことは、認めますけどね。でも、何で経験豊富な警部が、一応決着してる案件なんか調べてるんですか?」
ただの茶飲み仕事の暇潰し、と資料を詳しくみる前まではそう答えたかもしれない。
「……ん、ああちょっと気になってな……。まあ暇潰しだ」
私はごく無難に、そう答えた。流石にあと二週間で異動になる以上、余計なことに首を突っ込むべきではない。
すると新米は目を輝かせ、身を乗り出してきた。
「それってやっぱり、長年のデカの勘って奴ですか!」
新米が興奮ぎみに突っ込んでくる。刑事=デカとしての勘って……。
「馬鹿か、お前。古い刑事ドラマの見すぎか?」
某刑事ドラマは『ファンタジー』だと、自称元警官もネタにしていたが、勘で事件が進展したり、犯人が見つかったりなど、ありはしない。泥臭いこつこつした仕事の積み重ねが、事件の解決に繋がるのだ。
勘ですべて片付くなら、冤罪や迷宮入りする事件はほとんどなくなる。が、今回に限って私は、自分の勘を信じていいような気がしていた。
この事件にはまだ見えていない、『裏』の事情がある。確信こそないが、そう囁きかけるものが、確かにあるのだ。
私のなか、そしてこの資料のなかに。
「またまた~、警部。なんか気がついたこと、あるんでしょう?教えてくださいよ~。一応、パートナーなんだし」
パートナー、と言うと私と新米が、『対等』のように勘違いされるかもしれないが、一応私は階級も上……否、一応どころではない。この課では私はNo.3。本来、新米がここまで馴れ馴れしく出来る間柄ではない。




