幕間のニ B-4
私の蘇ってきた印象はここまで。顔の造形、表情は妙にモヤがかかった様に思い出すには至らない。
彼氏の家での騒ぎで、気が動転していたであろうことまでは、思い出した。そう、あれはまるで日本人形のような、没個性的な造形美、黒髪だけが浮いて見える……
「……って、警部。ちゃんと聞いてます?」
……新米の言葉で、ハッと我に帰る。
「ああ、すまん。ちょっと考え事をしてしまった」
「もう、ちゃんと聞いててくださいよ~」
と、不満の声を上げながらも、事件について熱心に語る新米の表情、声は妙に高揚しているように思えた。
……そう言えば、初めてこいつに全面的に任せた案件だったか。それが実質、 新米にとっては『初仕事』になったわけだ。
確かに、彼女が前のめり気味に熱心な語り口になるのは無理もない。誰しも、1番最初というのは緊張し、至らぬことも多いが、結果として強く心に残ろうというものだ。
私にしても、そういう経験を通じて今の仕事、生活を手に入れたのだから。
「で、関係者のなかで確かなアリバイもなく、死の前日最後に会ったのがその彼女で、彼女が言うには、ガイシャが自殺なんてするはずがない、と……」
「……まあ、彼女に限らず、身内やなにも知らない関係者なら、そう主張したいところだろうな」
私は、ファイルをペラペラめくりながら、ごく無難な一般論を呟いた。
「まあ、そうなんですけどね。でも彼女、事件直後は熱心に訴えに来てたじゃないですか。電話もしょっちゅうでしたし……」
「……そうだっけか?」
「全部、私が対応したんですからっ!」
私の興味なさげな態度が気に入らなかったのか、新米の声が荒くなる。
「本当に、怖いくらいでしたよ、あの子の熱心さは……夜中にも関わらす、仕事用のケータイに電話かけてきて、捜査の状況聴きたがったんですから」
「で、たまらず夜は携帯電話の電源切るようになったと」
まあ、当然そうなるわな。仕事用とはいえ不用意に、気が動転した関係者に番号を明かすなんて、バカのすることだ。
時々、納税者の皆様の、ごくごく一部の方は『公僕』が、同じ人間なんだと言うことを、お忘れになっていらっしゃるようで。
「そうなんですよ! よくおわかりですねえ」




