幕間のニ B-3
「事件? それって、一応不審死扱いの事故案件ですよね?」
……ああ、確かにそうだった。私はこの件に関して無意識に『事件』と言う言葉を用いてしまっていた。
ファイルに目を通す限り、この件に『事件性』は見出だせない。
「……自称作家と言うフリーターの、禁止薬物の不正使用によるショック死。遺書めいた作品を書き残しているが、それは完結作品とも、遺書とも分からず、自殺との断定にも至らず……」
「……随分詳しいな。よく覚えてるじゃないか」
「警部が私に全部、押し付けたんでしょ。この件はお前に任せるって」
「そうだったか? まあいいじゃないか。お前の刑事としてのスキルが上がるってもんだ」
私は続けて、新米からの説明を受けることにした。
「禁止薬物の使用と言うことで、当初は事件事故両面から捜査。一応、利害関係者から事情を聴き、近所などにも聞き込みをしましたが、事件に繋がるようなものはなにも出ず、関係者からも不審な点はなく……」
薬物の入手経路は不明なまま、不審死として処理。スランプに陥った自称作家が、手っ取り早く創作意欲を掻き立てるため、薬物に手をだし、使用量を間違えて死亡。
正規の報告書には書かれないが、それが捜査官にとっての心理的落とし処、と言うところか。
「あと、交際していた女性に関して何点か……」
「……続けてくれ」
そう言えば、現場に女が来ていたな。不審死のあった現場。しかも制服やら鑑識官やらがぞろぞろ歩き回る場所にあって、妙な存在感を放っていた。
ついさっきまで忘れていた情景を、私はありありと手に取るように思いだしていた。そう、一見する限りに於いては普通の女性に見えたが、それがかえって今時の若者にしては、と異質に見える奇妙な感覚。
髪はまるで染めたことのない、痛みのない綺麗で艶のある黒髪。その手入れが行き届いているのであろう髪を肩まで伸ばし、遠巻きにではあったが、枝毛もなく綺麗に切り揃えているように見えた。
肌は色白であったが、不健康な白さではない乳白色。
紺色のツーピース。年齢的にはリクルートスーツと言うのか、それとワイシャツを無難に着こなしていたので、顔色は目立たない、就職面接用のナチュラルメイクをしていたのかもしれない。




