幕間のニ B-2
そう思うと、急な異動もまあ悪くない。口には出さず、私はあの事件の資料に目を向け、新米のほうを見ずに言葉を投げる。
「……お前、元々交通課の婦警だったんだよな?それがなんで刑事になろうと思ったんだ?」
「そりゃあ勿論、なんたって刑事部捜査課は花形ですし、私の憧れでもありましたし……」
よくよく考えると、この新米とはこんな些細な、他愛なやり取りさえしたことがなかった。
「それでも最初は交番勤めか、それとも警備部か……」
私は交番勤務、いわゆるハコヅメから手柄を立て、幾つかの適性試験を経てからここにいるわけだが。
「それはあれですよ、志望と適性は必ずしも一致しないと言うか、夢を仕事にするのに、一抹の不安と言うか、ためらいがあると言うか……」
まあ、要するに優柔不断なわけだな。
……女、としてはひょっとしたら珍しいタイプ、なのかもしれない。今さらだが、確かにコンビを組んでからこっち、新米に対して『異性』を感じたことがなかった。
別に異例というわけではない、それなりに能力はあると認めてはいる。
少なくとも、今日までは。容姿も短髪のせいか、中性的でどちらかと言えば、可愛らしいと言う印象だ。
やや目尻が吊り上がっている点を除けば、だが。制服を着て、さぞ険しい視線で交通整理をしていた事だろう。
「……警部、今日はなんか珍しいですね。口数が多いと言うか……」
「……そうか? うんまあ、そうかもしれんな」
やっと色々目処がついて気が緩んだのだろう。嫌々ではあったが組まされた以上、コンビとして年長者としてこの妙な甘さ、新米臭さが抜け切らないこいつを一人前の刑事にしようと、私なりに何時も気を張っていた。
「で、警部はさっきからなに熱心に読んでるんですか?」
新米は案外可愛らしい物好きらしく、愛らしい熊の飾りがついたフォークでトマトを突き刺し、口に放り込みながら私のほうを覗き込んできた。
「行儀が悪いな。飯は大人しく座って食え」
おそらくこの距離感をあまり考えない、若者の感覚が肌に合わないのだろう。無駄に丁寧な言葉遣いをするかと思えば、失礼な物言いを悪びれずに使う。
「……それって、あの死亡した作家のファイルですよね?」
「ああ、ちょっと気になってな……。やっと暇ができたから、この事件を見直しているところだ」




