第二話。2-9
……それぞれの注文が決まり始める。私はもんじゃ焼きというものも実のところよく知らなかったりする。お好み焼きはよく自宅で作るが。
彼女が店員に対し、細かい注文をしているようだが、聞こえてくる餅だのチーズだの、ちょっとよく分かってない。
取り敢えず、鉄板上から料理を移動させ、準備を始める。
「薬師寺は、ここから半分、俺はこちら側を使うからな」
領域侵犯は許さんと、仕切り始める。私はと言うと、
「ああ、店員さん。今日は鯨、あるかな?ブロックの方」
「ありますよ〜鯨。丁度今朝、入ったばかりでさ」
カウンターの向こうの3代目が答えてくれた。私は自分で焼く自信はないので、三代目にお任せする。ちなみに、1番お値段は高い。
「岩永さん、鯨食べるんですか?」
「ああ、亡くなった母が生前、よく食べていてね。私も子供の頃、少し食べさせてもらった」
その頃既に、商業捕鯨は禁止されていたし、庶民の手に届くような価格ではなかったのだが、母は好んでよく食べていた。勿論、今の私がおいそれと出入りできる【お店】ではない。
「……そうか、そういえばもう一年になるのか、お前の母親が亡くなってから」
そう言って和泉は私にビール瓶を差し出してきた。珍しい事だった。
「珍しいじゃないか、お前が自分の酒を注いでくれるなんて。と言うか、いいのか?飲んでも」
「その為に、コイツを連れてきたんだ。たまには俺にも飲ませろ」
私のグラスにビールを注ぎ、その流れで空になっている自分のグラスへ。
「あっ、私注ぎますよ?」
「いらないよ。そういうのは。飲みたいやつが飲みたいように飲む。それが俺たち流なんだ」
が、今日のところはお前飲むなよ?運転手なんだからと、部下の好意を拒絶する。和泉自身はそう言う酒の席での、上司が部下に注がせたり、注いで回ったりという、日本式接待儀式のような物をはっきりと侮辱していた。
「うん、そうだな。まあ私は細かいことには拘らないがね。女性に注いでもらうついでに、会話の一つでもと思えばと」
「んん、岩永。俺の部下にセクハラか?酌の強要は良くないぞ、最近じゃすぐ訴えられるからな。それとも、ナンパか?」
「……部長、その物言いこそが、セクハラだと思いますよ」




