第二話。2-6
そう言う、喧嘩する相手がいるうちが花だと、いつの日か気がつく時が来るのだろうと一人、しみじみ思う。喉を通るビールが気持ち苦味が増したと感じた。
がらがらっと、店の入り口が開くのと焼きそばとたこ焼きが出てくるのが重なった。
「お、岩永。そこか」
中腰に立ち上がり、料理を受け取っていた私に声をかけてきた男には一人、連れがいた。
「またせたな、悪い。今何時だ?」
「いや、そうでも無い。ちょうどいいくらいだ。私も来て30分くらいだから……8時を少し回ったところか。で、そちらさんは?」
より正確な時刻は8時半過ぎ。友人の横には女性がいた。捜査員の一人、なのだろうか。私の安いライター報酬では到底買えないオーダーメイドの高級スーツとメンズコートに身を包んだ友人とは対照的に、特に飾り気のないスーツ姿に女性物のコートを羽織っている。勿論、この場で場違いなのは友人の方である。
「ああ、コイツか。最近、俺んとこに引き抜いた新人だ……」
明らかに浮いている自身の姿を意に解する様子もなく、近づいてきた。
「……草薙の元部下、だ」
そう耳打ちするように私に言う。
「ああ、そうか。彼女が」
私は内ポケットから名刺を取り出し、彼女の方へ差し出す。
「はじめまして、コイツの友人で岩永、と言います」
「あ、いや、これはご丁寧に私は……」
名刺を探しはじめたのだろうか、何やらあたふたし出したので私は、彼女を軽く手で制し
「いや、お名前だけで結構」
「あ、失礼しました。私は和泉け……和泉部長の部下で、薬師寺と言います……」
ふむ。一瞬、彼の【階級】を口にしかけたがまあ、ぎりぎり及第点か。制服と違い私服、特に和泉のような【特捜】に所属している人間は基本、身分を隠す物だろうと。まあ私は一般市民であるので、実際のところ詳しいわけでは無いのだが、和泉の場合、その辺りは徹底しているだろうと。
やや赤みがかった黒髪のショートヘア、スッキリ目鼻立ちの整った端正な顔立ち。やや目尻が吊り上がり気味で今、表情は固い。そのまま黙っていると、見るものによればキツめでさぞ、近寄り難い雰囲気があろうが……さて、和泉の趣味はこのようなタイプだったか。
「ん〜もう用はないわけだが、どうする?電車で帰るか?タクシー代、欲しいか?」




