第二話。模倣者〜動機あるものたち〜① 2-1
私がその店に着いたのは夜の8時過ぎ。ちょうど頃合いに腹も空いていた。最寄駅から10、15分くらいか。実際歩いた時間は30分以上だと思われるその場所は、古い雑居ビルの一階。Aの言葉で探し出すには割と苦労させられた。
一見疲労のせいか、脳内イメージ補正の賜物か、雑居ビル全体がやや傾いて見えるほど、古めかしい昭和の佇まいがそこにあった。
入口は自動ドアではない、横に開くとガラガラと音のするソレ。もはやレトロを通り越して古典だろうと思いつつ、店内に入るとこれまた、古風そのままの世界観。
一瞬、私は異世界転生でもしたのかと錯覚した。
店内は奥に向かって長く伸びており、入口から見て右側には、成年男子の股下20cm程度のやや高い位置にある畳の座敷席。備え付けのテーブルは広く、鉄板焼き用の設備がついているタイプ。ひと座席に六人はギリギリ座れるだろうか、今時珍しいかもしれない、簡易的な障子ばりの間仕切りがあるだけの座敷席が三席分。
中央部分は比較的にに広くスペースが取られており、四人用のテーブルくらいは置けそうに思えた。突き当たりにはお手洗いと書かれたドア。
左側が奥に向かって伸びるL字型のカウンター席。その内側厨房で三人の男が忙しく動いていた。カウンター席のすぐ前に二人、奥に一人。鉄板が忙しなく、かしゃかしゃと金属音を響かせていた。
厨房入り口付近、縦長カウンター席の横側に、元々テーブル席として使っていたのかしれない、比較的大型のテーブルがあり、その上にはおでんの入った器具と取り皿などなどが置かれていた。
店内の壁は元々、白壁であったであろう事が見て取れるが、所々剥がれ、地のコンクリートが見えており他はタバコの脂と煙で黄ばんでいる。そこに貼られている赤で縁取りされたお品書きも同様に。
その内装は、昭和生まれには郷愁を、平成世代には【汚くて美味い店】のテンプレ、未来に生きる令和の申し子たちは、社会の教科書で見るかもしれない風景。
これを異世界と呼ばず、なんと呼ぶべきか。
こう言った居酒屋風情ある鉄板焼き店舗としては、なかなかに規模が大きい。雑居ビル一階面積の多くがこの店が占めていると思われ、毎月の賃料を考えるに、かなりの金額だと想像に難くない。ひょっとしたらビルのオーナーが営んでいるのかもしれない。




