ED-6
確かに、車は俺たちが乗ってきたアルファロメオを除き、あの黒塗りベンツしかなかった。墓地には他に人影らしき姿は無く、自然その車には彼女が乗ってきた。そう考えるのは難しいことではない。
俺が駐車場に戻ってきた時、そのベンツがちょうど走り去っていくところだった。
「お前、さっき喪服を着た女と何か話をしてなかったか?」
そう聞くと、薬師寺は何やら興奮気味に答えた。
「そうなんですよ〜。こんな偶然ってあるもんなんですね。昔、私は初めて担当した事件あったでしょ?」
ああ覚えている、上役の俺を無視して飛び出して行ったあの事件の事だろ?そう言うと、
「知りませんよ、そんな事。あの時は警部から貰ったヒントをもとに、捜査を再開しようと急いで……ってそうじゃなくて。その事件の被害者の恋人、名前はちょっと覚えてなかったんですが、その彼女がね、さっきの人で……」
俺の背中を電流が貫いた。薬師寺はそのまま言葉を続ける……
「彼女の、一歳歳下の弟さん?が最近亡くなったそうで、そのお墓参りに来ていたんだそうです……」
……弟っ!俺には「兄の墓参り」と告げておいて、薬師寺にはっ!まさか……っ!
俺は自分が刑事であることは言わなかった。あの女が聞いていた噂とは何か?
岩永は、自身に姉がいることを、知っていたのか。なら何故、俺宛の手紙にそれを明記していなかったのか。
偶然は2度重なるのは偶然だ。だがそれ以上に重なった場合それは必然となる。
「おい良子、さっきのあの、趣味の悪いベンツ。あれのナンバー覚えているか?」
俺は思わず、彼女の名前を呼んでしまっていた。これはまずいっ!俺の中の警戒センサーがフルに働き、警告を発している。あの女は……ヤバい!と。
「はぁ?そんなの知るわけないでしょう?何なんです突然、潤一郎は」
二人っきりだからって名前何か呼んじゃって……などと的外れな呟きを俺は聞き流し、慌てて運転席に飛び乗る。
「早く乗れ、追いかけるぞ!」
言うが早いか、俺はすぐさまエンジンをかけ薬師寺が乗り込んだかどうかさえ、キチンと確認せず走り出していた。
「っいたたたたっ。何なんですかもう、急に怖い顔して追いかけるぞ、だなんて……」
急発進の際、何処かで頭をぶつけたらしい薬師寺を尻目に俺は言う。
「あいつだ。あの女こそがレディL。岩永浩子の後継者にして実の娘。そして恐らくは真の殺人鬼【クサナギケイイチ】だっ!」
俺はまだ確証もない、証拠もない。だが直感がそう告げているその【事実】を思わず口にした。




