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ED-4

 そう俺が声をかけると女性はゆっくりと立ち上がり、こちらを振り返って逆に問いかけてきた。


「……そう言う、あなたは?」


「私は彼の友人です、大学時代の。ああ和泉と言います、それで……」


「……貴方があの、お噂はかねがね、私は吉永さゆりと言います。彼の、妹です」


 どこかで聞いたことのあるような名前でしょ?そう言って彼女、吉永さゆりは笑っていた。


「妹?ですか、確か彼に兄弟姉妹はいなかったと……失礼、間違いだったら謝ります」


「いいえ、そうですね。戸籍上の兄妹というわけではなくてですね、同じ孤児院で一緒に育ったその関係上、兄・妹と」


「ああ成る程。確かに岩永から聞いたことがあります。入所した順番に姉・兄、妹や弟と呼び合うのが決まりだったと」


 それは少し違う。岩永の身辺調査をした際、孤児院の世話役をしていた人からそう聞いたのだ。


「そう、ですね。実は私、年は兄より少し上なんですけどね、入所したのが彼より後だったので……」


 本日は、兄の為にご足労くださり、ありがとうございます。そう言って彼女が俺に向かって頭を下げた。


「いえ、こちらこそ、謹んでお悔やみとご冥福をお祈り致します……」

 

 そう言って一礼する俺にもう一度ありがとうございます、と言った後、お先に失礼しますと言いながら彼女は私の通り過ぎていった。

 傘も差さず歩み去っていく、その後姿を少しだけ見送った後、俺は彼の墓の前に立ち、持ってきた線香の束に火をつける。

 立ち上がるその煙から白梅の香りが周辺を満たし始めた。俺は線香を墓前に備え、手を合わせた。


「今日は色々、報告がある……」


 事後を託されたものとして義務である。まず、岩永と千尋さんの婚姻届は受理されなかった。書類が届く前に、彼の死亡届けが出されたからだ。もしそうなったときの対処として、岩永はあらかじめ、婚前交渉としての書類を作成し、千尋さんに預けていた。


 その詳しい内容については、事前に取り決めをしていたこと以外、彼女は知らなかったが事実上、それは正式な作法に則って作成された遺言状であった。

 まず、婚姻が受理されなかった場合について、自身が死亡あるいは失踪した後、全財産は彼女の意思に委ねられる旨、弁護士との連名のもと記載されていた。日付は自身が死亡するおよそ1週間前。

 それは彼女が結婚することを承諾した日の、翌日のことだと言う。おそらくは文章自体それ以前より準備していたものであろうと俺は考えている。

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