ED-2
実際、テロリストの持ち物の中に、ターゲットの顔写真として渡されていたスナップ写真には、岩永の姿が映っていた。
それを渡してきたのは誰かと問うたが、それは差出人不明で郵送されて来ており、犯行に及ぶ数時間前に、場所がメールで送られてきたのだと言う。
そして合図を待って彼を狙撃しろと言う指令の下、倉庫の爆破が合図であると認識したテロリストは射殺指令を実行した。
ターゲットが違っていた事に関しては悔しがっていたようだが、そのテロリストは笑いながらこう言った。
「俺は確かに失敗した。だがな、俺の同志達は世界中にいるぞ!みんな、お前の首を狙っている。せいぜい気をつけるんだな。寝る時、飯食ってる時、便所でクソを捻り出してる時。車で移動する時、そこの女と一発ヤってるとき。心休まる暇など、もはやないと思えよ、クソ警官」
如何にも芝居かかった物言いである。がこの時ばかりは少々、俺も怖くなった。確かにコイツの言う通りだと、口に出しては、
「望むところだ、そいつら全員、見つけ次第ぶち殺してやる」
俺自身、命の危険がある事に恐怖を感じる前に、岩永の仇を討つと言う負の感情の方が優っていた。
もし仮に、岩永の手紙が届かずにいたら、俺は復讐心に堕ちて関係あると思われる連中を無差別に殺して回る、殺人鬼と化していたかもしれない。
そういう意味で、岩永の命懸けの告白と情報は、二重の意味で俺を救ってくれた。
と、同時に救えなかった人間についても、岩永の手紙によって明らかになった。
Aは実際のところ、誰1人として殺していなかった。薬物等の使用によりそう思い込まされただけで、あくまでも【クサナギケイイチ】が犯していた殺人・暴行・陵辱の記録を読み、あるいは映像で見たものを模倣したに過ぎず、流出した動画データや、文章は全て捏造・合成されたものだった。
ナギさんについても、保存されていた精子を使ったでっち上げ、冤罪であることも記載されていた。
「だが草薙は、あいつは間違いなく母さんの共犯だ。何せ私の犯した事件のいくつかをもみ消し、検出された体液の幾つかを自ら進んで、すり替えたのだから」
そう書かれていたが彼が、ナギさんが何故、そのようなことをしたのか。結局のところ何もわからなかった。自身、実の子供を守りたかったのか。それとも深い関係を持った、女を守りたかったのか。それはもはや闇の中に消えた。




