エピローグ。〜善悪の彼岸にて〜 endless waltz ED-1
梅雨入り前の小雨降る、5月のある日。俺は珍しく黒の喪服を着て、岩永の墓参りに来ていた。もちろん、パートナーの薬師寺も一緒だ。
あの日から今日までの数ヶ月、怒涛のような毎日だった。岩永が殺害された日から、丸三日は部屋に帰られず4日目の明け方ごろ、生ける屍のような体でマンションにたどり着いた時、郵便受けに一通の手紙が届いていた。
差出人は岩永浩一、そして草薙啓一の連名であった。これが何を意味するのか一瞬で察して、部屋に入るのも忘れて、俺はその場で封筒から手紙を取り出し読み始めた。
「全く下手な書き始めて申し訳ないが、これをお前が手にして読んでいると言う事は、おそらく私は死んでいることだろう……」
手書きで書かれていたこれは間違いなく、岩永の筆跡だった。封筒の中には、便箋数枚に渡る自白とも取れる告白と、1個のメモリーカード。
その中身は恐るべきものだった。あの爆破され消失してしまったサーバー内のデータ、その大半がこの中に収められていると、手紙は告げていた。
「こんな形で、私の知りえる情報を渡さなければならないことについては、謝罪する。さすがに私自身、監視されている状況の中、奴らの組織を壊滅させられる情報を渡すわけにはいかなかったからな」
仮にこの情報がお前の手に渡ったと言う事が漏れれば当然、模倣者たちは隠蔽を図るだろう。それでは駄目だ。可能な限り最新の情報を集めて、いくつかの場所に分けて隠してある。これをお前に託す。可能な限り全力で奴らを、母さんの負の遺産を叩き潰してくれ、親友。
俺はこのメモリーカードに収められた情報をもとに、世界各国でテログループ、マフィア・麻薬シンジケートと言った犯罪組織や、証拠不十分で逮捕、追及を免れていた殺人犯あるいは、闇に潜伏し捕まえられなかった、暴行強盗の常習犯達を次々逮捕拘禁し、計画されていた幾つかのテロ計画を未然に防ぐことができた。
……岩永の件については、俺が協力者のもと極秘裏にテロ組織のアジト捜査していた際、彼らを追い詰めるための情報提供者の1人だったルポライターが、彼らの自爆行為の巻き添えとなり、死亡したと修正がなされ、報道された。
岩永が狙撃によって死亡したと言う部分は、当然ながら伏せられた。その狙撃したスナイパーはほどなく検問の網に引っかかり、その日のうちに逮捕されたが、あくまで自爆に及んだメンバーの1人として公表された。
逮捕されたメンバーの供述により、岩永を7人のテロリスト事件で首謀者と幹部を逮捕した俺だと思ってその報復の為、狙撃したのだと言う。




