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第五話。後編 last-16

「待て!岩永。何処へ行くつもりだ?」


 思わず俺は叫んでいたが、程なく岩永は立ち止まり俺たちの方を見た。その顔は先程と同様に笑っていた。


「すまんな、和泉。時間だ」


 そう言い終わるのとほぼ同時に、倉庫が轟音と共に爆発、炎上し始めた。


「あの扉はな、一定時間空きっぱなしにしておくと、セキュリティが発動するんだ」


「お前っ!それを黙って証拠を……っ!」


 消そうとしたのかと、俺は最後まで言えなかった。

 鈍い音と共に、何かが岩永の体を貫いた。彼を射抜いた弾丸の跳弾音を聞いた後、遅れて遠くから響いてきたライフルの発砲音が耳に届いた。


「スナイパーだっ!全員遮蔽物の影へっ!」


 そう言いながら俺は倒れ込む岩永に向かって走り出していた。凶弾は彼の胸を、急所を正確に射抜いていたが、まだ辛うじて息があった。


「岩永ぁ〜っ!しっかりしろ!」


 俺は既に意識が消えかかっているであろう、彼の目を覚まさせるべく声を張り上げた。


「……う、うるさいなぁ。そう怒鳴らなくても、聞こえて、いるよ……」


 少しだけ意識が戻ってきたのか、辿々しくはあったがなあハッキリとした声で、そう答えた。


「よし!まだ、大丈夫。意識を途切れさせるなよ。すぐに救急車が来るから……」


 ここでドラマなら、しゃべるなと口にするところだろうか、などと益体もないことが一瞬脳裏をよぎったが現状、彼は助からない。ならば少しでも強く意識を保たせ、言葉を残させるべき……っ。


「俺は、な。お前に会えて、感謝してる、んだぜ。結局、何一つお前には敵わなかったが……」


「当たり前だ。俺は天才、だからな。努力だけが取り柄のお前になんか、負けるわけ、ないだろうが……」


 後半、俺の言葉に嗚咽が混ざった。腕の中で死んでゆく親友を感じながら、溢れ出る感情を抑えきれなくなっていた。


「あと、のことは、すべてお前、に託す。自分のし、んじた道を……迷わ、ずゆけよ親、友。あと、な……」


 岩永が指で俺の顔を近づけるようにジェスチャーする。


「なんだ?俺に何を言いたいんだ」


「さっさと結婚して、彼女を幸せにしてやれ、この優柔不断の大馬鹿野郎!」


 一瞬、両目を大きく開き鬼の様な形相をした彼の、精一杯の大声だったのだったのだろう。だがその声は俺以外の耳には届かなかった。

 それが、彼の最後の言葉となった。

 程なく、駆けつけたパトカーが2台、私と岩永を挟み込むようにして停車する。


「警視!岩永さん、岩永さんはっ!」


 そこへ駆け込んできた薬師寺に、俺はかける声もなくただ、声もなく泣いていた。



最終話、了。

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