第五話。後編 last-15
そのデータも全てサーバーにある。ここから世界中に情報拡散し、集積するのは【俺】の仕事だった。そう言いながら彼の口元には自重気味の笑みが浮かんでいた。
「……おっと、下手にPCを触るなよ?ドカンっ!といくぞ?」
「爆弾でも仕込んでいるのか?冗談だろ?」
「そう、思うか?まぁ俺と心中したいって言うなら止めはしないが」
余計なことはしないほうが無難だろう。
「とりあえず、爆発物処理班を呼んでおけ。無事にデータを取り出したいならな」
そのことをわざわざ言われるでもなく私は部下に電話をし処理班の手配をさせた。
「ここがすべての中枢なのか?岩永」
「まあ、その一つではあるかな。俺も母さんもすべての【組織】【同志】達について把握し、コントロールしていたわけでは、ないからな」
いろいろ好き勝手にやっている連中もいるだろうよ。そう言って笑っている岩永は、見るものが見れば邪悪そのものにも見えたことだろうが……
「ああ、久々に見たよ、そのお前の偽悪趣味な笑い方。小説のネタを考えている時はいつもそうだったよな」
「偽悪趣味か、そうだなお前の言う通り、俺は悪に徹しきれなかった。母さんのように善悪区別なく、自分の行動に何の疑念も迷いもなく邁進できるような冷徹さもついに、持ち得なかった」
戻ろうか、そう言って進み出した岩永に従って俺も歩き出す。
「一体、どういう人間だったんだ?お前から見て母親、岩永浩子と言う存在は」
私は前々から聞いてみたいと思っていた質問を、遂にぶつけた。それは今、この時でないと意味がない、岩永の口から語られるべき彼女の実像だ。
「そうだな、改めて問われるとなかなかに難しいが、母さん自身の言葉を借りれば、女優としては半端もの、親としては落第もいいところ。女としては、それなりに楽しんだかしら?などと言ってたかな?」
「それはまあ、それとしてお前自身はどう感じていたんだ?」
しばしの沈黙。倉庫の入り口へと向かいつつ考え混みながら、一言。
「神様、かな?」
そういった岩永からすべての邪気が消えて、顔には無垢な笑顔が浮かんでいるように見えた。
……そうこうしているうちに遠くから、パトカーのサイレンの音が聞こえ始めていた。私は警官2人に今後の処理について話をするために岩永をその場に残し、歩き出した。 それが間違いだった
「警視!岩永さんがっ!」
逃げるはずがない、そう思っていた。薬師寺の声を聞き、後ろを振り返ると岩永は一人、海に向い歩き出していた。




