第一話。1-10
途中、最初の頃のような感情の昂りや縁起じみて見える箇所もあったが、概ね満足のいくものであった。初見、感じていた【武勇伝】のわざとらしさと、彼の【本心】からの声と思える箇所。その違いを微かに感じられた。
確証はない。が、確かに彼は【嘘】をついている。
「ありがとう。色々と記事の参考になったよ」
面会終了時間が来た。正直、聞きたいことの確信は、今日のところ聞き出すのは難しかったようだ。残念には思うが、まだチャンスはあるだろう。今日はこれで引き上げる。
「もう、終わりか。残念だな。全然話し足りないなぁ」
Aは話しの間殆ど、その口元から皮肉な笑顔を絶やさなかった。それが彼の仮面であることはすぐに分かったが、そこは指摘しない。
「ああ、私も楽しかったよ。次はもう少し突っ込んだ話しがしたいものだが……」
私は手にしていた取材用のメモ帳とボールペンを鞄にしまいながら、彼の声に応じた。
「そういや、あんたの名前。聞いてなかったな」
……初見、名刺を見せて名乗ろうした私を、聞いても意味ないと制したのは彼自身だった。
「……いいぜ、聞いといてやる。あんた、名前は?」
「ふ、ふふ。君が言ったんじゃなかったか。これから死んでいくやつに、名乗る名も覚える価値のある名も、ないだろうと。私もそれに全面的に賛成でね。犯罪者の言葉に、感銘を受けたのはこれが最初だよ」
Aの笑い声が、部屋全体に響き渡った。初めて聞く、彼の腹の底からの笑い声のように感じた。
「……実家の鉢植えのサボテンだ」
Aがポツリと言う。私が聞き取れるかどうか、それほど低い声で。私は咄嗟にメモ帳を取り出そうとしたが、メモは取るな、と低い声でAに釘を刺された。
私は隣の看守に押されるようして、部屋を後にした。
その後、何やかんやお偉いさんのお説教やその他、雑多な手続きを終えて、拘置所を出たのは1時間ほど過ぎたあたりか。日は陰りそろそろ夕刻かと言う時間、私は電話をかける。
『俺だ。どうした』
思っていたより、反応が早かった。例の、私の友人である。今忙しいか?という私に彼は、すまん今運転中だ。一応、ハンズフリーにしているが……
『分かった、手短に言う。Aの実家だ。そこの鉢植え、全部抑えてくれ。特にサボテンがうわっているヤツ。大至急だ』




