第一話。殺人の追憶。1-1
「知ってるかい? 記者さん。人を殺して罪にならないことが三つあるって」
今、私の目の前でそう語る男は死刑囚。奇妙な男だった。彼はケタケタと、自分の犯した罪について、笑いながらさも楽しく語るのだ。死の両目から大粒の涙を流して。
「三つ、のうちに入るかどうかは分からないが、職務上の問題、例えば軍人が戦場で人を殺すとかかね?」
……彼は懺悔をしているのだろうか、私は思ったことは口にはせず、そう言った。
「惜しい! 微妙に違う。戦場で兵士が殺して良いのは、攻撃性のある敵兵だけだ。人じゃない」
が、定義としてはそれが一つ目であると彼は言う。
「なるほど、確かに。言われてみれば国際法上、交戦国の民間人への殺傷行為は重罪ではあるな。……ちょっと興味本位に聞いてみたいんだが……」
私は彼に大量破壊兵器、例えば核攻撃或いは、製造などによる直接、間接的な殺傷行為も、罪に問われて君のように死刑になったものはいないと思うが、これも罪に問われない殺人と言えるだろうか。
彼は俯き、少し考え込むようにして目を瞑り、手癖なのだろうか。右手を口元に当て親指と人差し指で下唇を軽く挟むような動作をしていた。
「……それは違うな。それは僕が考える殺人の範疇から逸脱している」
目を開き、私をまっすぐ見据えて彼は語り始めた。先程までの笑みも、涙も消えていた。
私は、よし!食いついてきた、と表情には出さず、内心ほくそ笑んでいた。
「それはそもそも、命令を下した一個人に帰するべき罪じゃない。その使用を許可した政治的指導者、ひいてはその指導者を選んだ有権者一人一人が追うべき類の罪だ。殺人とは呼べない」
まさか国民全員をムショにぶち込むわけには、いかんだろ?と、彼は再び口元に笑みを浮かべた。
そう、それも彼の言う通り。続けて彼は語る。