表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

お母さん、わかりますか

作者: aqri
掲載日:2021/11/20

資料A


優しい、料理が美味しい、おやつも自分が食べてるものを半分分けてくれる

テストで点数が落ちても頑張ったねって褒めてくれる

誕生日はいつも私が好きな物、欲しいものをくれる

旅行は行きたいところに連れて行ってくれる、遊園地は絶対行く

欲しい服も買ってくれる、ちょっと高くてもパパには内緒ねって言ってこっそりと

私が少しきつい言葉になっても怒るけど嫌いにならずにずっと優しいまま

家に帰るとおかえりって必ず言ってくれる

母の日にプレゼントを贈るとものすごく喜んでくれる、ありがとうって言ってくれる

それが、お母さん

ずっと一緒に居て欲しい、感謝してる


資料B


うざい、きもい、料理が本当に下手クソで食べたくない

お菓子はいつもいらない残飯みたいなやつを押し付けてくる、食べないと機嫌が悪くなるヒステリーで本当に面倒

テストとか成績は特に興味もないくせに文句ばっかり

誕生日に欲しいものをもらった事なんてない、ゴミばっかり

旅行は自分が行きたい所しか行かない、それをさも私が行きたいって言ったから仕方なく行ってやってるって態度

服はクソダサなものをわざわざ買ってきて押し付けてくる。センスがないしマジいらない、雑巾にした方が有効活用できる

私が何かを言っても絶対自分の意見を曲げないし、私の言う事は本当にどうでもいいっぽい

顔を見ると文句と押し付けばかり

母の日は何も上げないとネチネチずっと嫌味を言うからてきとうにあげると予想通りもっと欲しいものがあったみたいな文句をつけてくる

それが、母親

うざい、さっさと消えればいいのに あんなババア


 警察官は資料AとBを回収し、母親に尋ねる。


「以前児童相談所から双子の姉妹の片方を育児放棄し虐待の疑いがあると、このような調査をしたことがあったので資料をお借りしました。AとB、どちらが亜沙美さんでどちらが亜由美さんだと思いますか?」


 母親はふん、と鼻で笑った。


「当然Aが亜沙美でしょう。私が亜由美をそこまで好きじゃなかったのはもう隠しても仕方ない事だから認めるわ。どんくさくて何もやってもダメな亜由美より、てきぱきいろいろ器用にこなす亜沙美の方が可愛いに決まってるもの。亜沙美にはいろいろ買ってあげたり優しくしたりしたし、亜由美とはほとんどしゃべってないからこう書くのも無理はないと思うけど」


 その言葉に、警察はすっと目を細めた。なんだか睨まれているようで母親は怪訝そうに警察を見る。


「逆です」

「え」

「Aが亜由美さん、Bが亜沙美さんです」

「そんなわけないでしょう!?」


 警察官の言葉が信じられず母親はガタンと思わず立ち上がった。勢いよく立ったせいで椅子が倒れ、取調室にカターンと音が響く。


「学校や友人の調査もしています。亜沙美さんは常に周囲に貴方の愚痴、というか悪口を言っていたそうです。日に日にその言葉遣いが悪くなり生活指導の教師から注意を何度か受けています。逆に亜由美さんは貴方の事を優しいお母さんだと周囲に言っていたそうです。実際に優しくされたことはないので具体的エピソードはなかったようですが」

「なんでよ、ありえない!」

「あなたは可愛がっていた方の娘をぬいぐるみか所有物のように扱い、本人の意思を無視してきたということです。執拗な過干渉、お菓子は自分が分け与えたのだから食べないのはおかしいと食べ終わるまで観察する、料理はおいしくないと言ってもそんなはずない美味しいでしょうと強要し、テストももっといい点が取れるはずだと努力を誉めない、欲しいものを言っていても何一つ覚えおらず自分が与えたい物を与える。娘の意見は子供の言う事だからかと聞く耳を持たず自分の意見を押し通す。これも立派に虐待に入る類なんですけどね」


 警察官の言葉に母親はわなわなと怒りに震える。自分の教育を、人間性を否定されプライドが傷ついた。しかし警察官は気にした様子もなく、むしろ、ほんの少し侮蔑の視線を向けた。


「六月九日、二十時十六分、双子の姉妹のうち片方がもう片方を殺害。貴方はその遺体処理を手伝った。娘を殺人者にしない為と、自分が殺人者の母親にならないために」

「知らないって言ってるでしょ!」


 母親が叫ぶが警察官は淡々と告げた。


「娘さんがそう自供したんですよ。細かい状況までしっかりと。証拠も回収済みです」

「!?」


 そんなバカな、と信じられない思いでいっぱいだ。絶対わからない、家出したという事にしようねと強く念を押した。あの子は泣きながら何度も頷いていたはずだ。だから今回の取り調べも強気でいれば問題ないと思って最初の頃被害者の母親を演じて警察を罵ったというのに。


「話を戻しますけど、何故そうしたかというと生きている方が亜沙美さんだと信じたからですよね。亜由美さんだと思ったら警察に突き出すでしょうから、加害者の母親より被害者の母親を盛大に演じることができます。一体なにを判断材料に亜沙美さんと信じたのです? 内心貴方を蔑んでいた亜沙美さん内心理想の母親像を抱いていた亜由美さん、二人の思想は貴方が思っているのと真逆だったわけですが」


 警察官の言葉にようやく母親ははっとした。わずかに目を見開き、小さく震え始める。遺体処理は、バラバラにした。てきとうに捨てた、嫌いな娘だと信じて生ごみを捨てるように。

 その様子を無視して警察官は一枚の紙を見せる。それは先ほどの児童相談所の資料の続きが書かれていた。


追加調査

二人に同じ問いをした。「母親の事は好きか」 別々の部屋で聞き取りをしたが二人の答えは全く同じ


『大嫌い』


 その文字を、母親は信じられないという思いで凝視する。亜沙美には下に見られていて、亜由美からは素敵な母親だと見られていて、でも、好きか嫌いかはどちらも大嫌い。

 何だこれは、結局二人は自分を好いていなかった? 亜由美に至っては自分を優しい母親だと言っているのに。

 しかも自白までした? どちらの意味でだ、自分をはめるためか自責の念か。

 いや、自分の事を二人とも大嫌いだと言っているのではめるという事はありえない。何だ、どういうことだ、と考えが止まらず頭をぐしゃぐしゃと掻きむしる。


「なに……? これ、どういう……?」

「先ほど取り調べの最初で双子の見分けがつくと偉そうに大見得を切っていたので改めてお尋ねします。被害者と加害者、どちらが亜沙美さんでどちらが亜由美さんでしょうか」

 わからない、そんなもの。


「ちなみに、先ほどお母さんをどう思いますかと聞いたらこう帰ってきましたよ。『私の為に犯罪にまで手を染めてくれたお母さんの事、大好きです』ってね。今までの資料と、殺人を犯して動揺した中で自分を助けてくれた母親への感謝の気持ちが芽生えたという状況から教えてください」

 ますます混乱させることを言わないでほしい、今考えているのだからちょっと黙って。


「証拠も固まっているので検挙はできるのですが、我々では二人の区別がつきません。DNAが同じですからね、特定には時間がかかります。我々も暇じゃないので、さっさと答えてください」

 そんな事言われたって。


「てきとうに言った場合、犯人蔵匿の罪状が追加されますので論理的にお願いしますよ。どちらがどちらですか。あなたが言うところの『無能な警察』と違って、絶対にわかるのでしょう?」


警察は真っすぐ母親を見つめ淡々と言った。


「あなたは母親なんだから」


END


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ