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第95話 返答はため息・・・

「俺の能力?」


 言葉を重ねるシルに、アンはより一層顔を近づける。


「そう! お互いの戦闘スタイルが分かっていたら、結構良い作戦が浮かびそうじゃない?」


「なるほど、確かに」


 アンの言葉には妙な説得力があった。まるで、こういった作戦を立てるのには慣れていると言わんばかりのそれは、シルにとって心強い以外の何者でもない。実の所、シルはこういった事前に立てる作戦を考案するのを苦手と自負していた。


どうにも、頭の中で戦場を想像して、それにあった布石の手を打つことを考えると、背筋が痒くなるのだ。一方で、得意とするのは、グラウンドでの一戦のような、戦場において咄嗟の機転を働かせること。なぜか、気が動転するはずの戦場に身を置いている方が、頭が冴え渡るのだ。まるで、そこがシルの生き場だと言わんばかりに。


「で? どんな戦闘を得意としているの? 逆に、苦手なシチュエーションとか説明してくれると、もっと助かるんだけど」


「苦手か・・。まぁ、順序よく説明していこうかな。俺の戦闘スタイルが最も生きるのは、主に近接から中距離の範囲内。近接では剣を、中距離では暗唱によって変形させた三叉槍を使って攻撃を繰り出すんだ」


 なるほどね、と彼女は軽く相槌を打つ。そして、視線を僕から外し広げられた紙に落とすと、ペンを片手に文字を書き込んでいく。


「苦手とする状況は——特にないかな? 強いていうなら、超長距離から狙ってくるスナイパーとか。まぁ、銃弾を剣で弾いて場所を把握している間に移動されて、また銃弾切手の無限ループに入るんだけど」


「シル・・・それ、もう人間辞めてるから」


「そうか?」


 書き込む手を止めて、呆れた顔を見せてくるアン。それを、シルは何食わぬ顔で返答した。それが当たり前なんだと勝手に悟ったアンは、シルの隣にある余白に『人間離れ』という文字を小さく書き込んだ。


「何でそんなに自分の力に自信があるのよ。もしかしたらさ、姿を完全に消すやつとか、触れたら即死亡、みたいな能力の持ち主もいるかもしれないじゃん。そんな奴らと戦闘が起きた時に、どうやって勝てるというの?」


 俯きながら尋ねるアンの肩が、僅かに震えているように見える。きっと勘違いだろうと、シルは光源の方に視線を外し、考え込むように頭を掻く。


「う〜ん。基本的には、そういう所謂ぶっ壊れ、みたいな能力の相手とのシミュレーションもしてきたからかな。師匠に叩き込まれてね。だからこそ・・・そうだな、ごめん。さっき書いてもらった場所を訂正してもらってもいいかな」


 急な発言に、アンの顔が上がる。そして、シルとアンの視線が交錯した。


「何よ、どこを修正すればいいの?」


「苦手なシチュエーションのところ。そこに追加で書き込んで欲しいことがあるんだよ」


「ここね。で、何て書き込むの?」


「マシュ、ガルーダ・カリュ。この中で、俺が唯一苦戦するメンバーだよ。あいつとの勝負は、本当にどっちが勝つか分からない」


「そんなに強いの? あの小っちゃい男の子よね?」


 言われた内容を綺麗な文字で、紙に表していく。その声には、どこか懐疑の色も含んでいるようにも思えた。


「強いよ。多分、才能だけで言ったらクラスで一番・・・だと思う」


「それはなに? 二人が同じところの師匠で育ったこととか、オークを倒したこととか関係しているのかしら?」


 それもある、そう口を開きかけるが、不意にその動きが止まる。シルは自分の中の深い記憶に潜り込む。そして、実際にあの時の男子グラウンドで起きていた出来事を話したことがあったかと、自問自答を繰り返す。いや、恐らくなかったはずだ。だったら、なぜ彼女はそれを知っているんだろうか。


「俺、アンに男子グラウンドの話したことあったけ?」


 その返答はまさかの、


「はぁ・・・」


 ため息であった。

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