第93話 模擬戦!!
「ふん。たった二日しか経っていないにも関わらず、いい面構えをしている奴が多いな。よっぽどグラウンドでの襲撃が刺激になったか。実に、いい傾向だ。そのほうがこちら側もやりやすい」
睡魔がシルの脳裏をチラつく中、教卓に立つ大佐の姿。昨日の学力テストの時とは打って違い、用意された10個の席に空席は見られない。今年、全人類から選抜された学生が一同に教室に集合していた。
男子学生が5人、女子学生5人の丁度良い男女比に落ち着いた教室に、時折顔を覗かせる朝の眩しい日差し。これからの明るい未来でも、祝福しようとしているのだろうか。その割に、視界の端の方がチカチカして集中力を削がれるのだが。そんなことに、考えを馳せていたら窓側に座る一人の生徒がカーテンを勢いよく閉めた。
「学力テストに関してだが、受けていないものも多数いる。よって後日、日を改めて試験を行うので、各自そのつもりでいろ。そして、ここから重要なことだ。これから、お前たちが行うことについての説明を始める」
痛々しい包帯を依然として巻いている学生も多い。だが、彼らにはそんな怪我は目にも入っていないようだ。目線に熱意と希望を含ませながら、話す大佐の方から目を逸らさない。それどころか、怪我している身体に無理を強きながらも、正しい姿勢を保とうとするものも見える。
『アン・・、腕の怪我は大丈夫なんだろうか・・・?」
シルは、言葉にすることはなく、胸の心配を吐露した。結局、昨夜は洗いざらい全てを話すことを強要された。テストの件もそうだが、グラウンドでの戦闘のこと、そしてなぜ事前に気付けたのかについて。まぁ、彼女にも疲れが溜まっていたから、最後まで話す前に寝落ちしてしまっていたが。
それでも、仮にも同じ部屋に身を置く者として、少なからず彼女の身を案じてしまう。朝の時点では痛みはかなり薄れた口ぶりをして、シルに話した。だが、虚勢を貼っている可能性もある。そんな身体でまた無理をやろうものなら、自分が止めなければと、強く決意を固めた。
「君たちに求められるモノは二つだ。一つ、これは誰でも分かるな、力だ。だが、勘違いするなよ。力と言っても、それは一言では表現できないものを指す。闇の一族からか弱き国民を守るための力。そして、それを無作為に使用するのではなく、制御できる力。これらを身につけてもらいたい。では、あと一つは・・・シル!!」
「はいっっ!!!」
「答えてみろ、今のお前に最も必要なものだ」
別のことを考えていた時に、急に指名を受け、シルの身体は一度大きく身震いしてしまう。そして、言われてもないのに椅子から腰を浮かしていた。ただでさえ、教室中の視線を集めていたところに、追い討ちをかける行為。より鮮明に映る生徒からの視線は、より一層シルに焦りを生ませる。
「必要なものですか・・・?」
「あぁ、そうだ。早く答えろ」
「コミュニケーション能力でしょうか——?」
はぁ、というため息が大佐の口から漏れる。と、同時にマシュも頭を抱えるような仕草を見せた。明らかにそれらの態度は、呆れる感情を全身で表現していた。
「それは、この場所が提供するものではなく、自分で掴み取っていくものだ。マシュ!! 代わりに答えを」
「はい! 答えは知識だと存じます」
「正解だ」
座ったまま、冷静に答えを述べるマシュ。望んでいた答えが返ってきたのだろう、大佐の口から再度失望の吐息が吐かれる事はない。それどころか、教室中から歓声にも似た拍手すら上がる始末だ。シルは、顔を赤目ながらも、静かに着席する。
「知識は大事だ。相手の正体を瞬時に見抜くのも、打開策を思いつくのも、それは基礎知識から派生するものだ。派手さに目を奪われることも多いが、その裏には積み重ねた地道な知識があることを見落とすな。じゃあ、その知識を補うにはどのような方法があるのか? カーラ、お前はどう思う?」
「辞書に目を通すとかでしょうか?」
平静を保つ口ぶりであったが、僅かに語尾をあげる言い方。答えに自信を持てていないことは、明白であった。
「それもある。実際に、この場所では座学の授業も設けているくらいだからな。でも、それだけでは知識は身に付かん。実践の中で試すことで、知識は頭だけでなく全身の細胞に定着する。だからこそ、」
大佐は一度言葉を区切る。そして、新入生の顔を右から順に見渡していく。左手の最後尾まで視界に収めた時、再び閉ざした口を開くのであった。
「二週間後に、この中で二人一組のチームを組んでもらい模擬戦を行うことにする。チームは作戦会議をしやすいように、相部屋のものと組んでもらう。自分の能力、味方の能力、そして対戦相手の能力、全てを考えろ。そして、その勝負で得た知識を身につけてもらいたい。ちなみにだが、この模擬戦は親睦を深める意味合いも込めている。なので、勝敗に拘らず励んで欲しい。もちろん、成績はその戦績から決めるがな」
「いや、それ勝敗に拘らないって無理なんじゃ・・・」
誰かが小さくその言葉を口にする。突如として、大佐の鋭い視線は声がした方向に移動する。視線の先にいた学生は、実際に声をあげたかどうかは分からないが、背中を丸くしていた。
「勝負の世界に負けてもいい場面などない。やるからには全力だ。手加減をするな」
そう言い終わると、都合の良いタイミングで授業終業のチャイムが鳴るのであった。




