第91話 え、会話噛み合ってなくね?友達やめるわ!
朱音の光の一線が既に黒みを帯び始める。その、移り変わりの様をシルは窓から入り込むそれで感じていた。僅かな談笑しか起きないこの教室に、長く伸びる影は二つ。シルとマシュのものだけだ。
「マシュ、お前は帰らないのか?」
「すぐさま、そんな気分になれるわけないだろう。あんなことを言われてしまったら」
少し時間を遡るが、この教室にいた三人目の影。ウィリアム・ポルジンギス大佐は、少々話しすぎたと言葉を最後に残し、この教室から去っていった。しかし、彼が落とした影は床に伸びることはないが、確かにまだ二つの心の中では存在し続けている。それが、この場から動けなくなってしまった理由なのかもしれない。
「あの言い草・・・結構心にくるものがあったよな」
「あぁ。言葉に重みがあった。恐らく、過去に僕たちと似たようなことが起きたんだろう。詳しいことは分からないが、何かと重ね合わせているようだった」
「確かに。少し呆けてしまっていたからな、俺も」
「いや、違うだろ」
言葉のキャッチボールが上手に行われなかったようだ。意図していな返答が返ってきて、シルは目を大きく見開く。その様子を、マシュは何ともないように流す。何もコミュニケーションにおいて、問題が無かったと言わんばかりの態度であった。
「ちょ、ちょっと待てよ。何が違うって言うんだよ・・? 俺もマシュも、あの人の言葉に考えさせられて、今まで教室に残っていたんじゃないのか?」
「え? そうなの??」
おかしい・・・。途端に会話の何もかもが噛み合わない。共通理解として想定していた土台が、どうやら全く異なっているような。そんな感覚が、シルを襲った。
「・・・マシュはなんでまだここにいるんだ?」
「そりゃあ——シルが落ち込んでいると思って」
「何にだ・・・?」
「学力テストの結果に。点数酷かったろ? だから、一人にしたら飛び降り自殺でもするんじゃないかって気が気でなくて」
「全然違うじゃねーか!!!!」
シルの声は、先程までの静けさを吹き飛ばす勢いで発せられた。あまりの声量にマシュも驚いたのか。その小柄身体を一度ブルっと震わせていた。一方で、シルも違う意味で震えていた。そう、怒りと絶望で!!
「え!? 何で?? 何で、俺があんな学力テストの点数ごときでショックを受けなきゃいけないの!? それに、ここ3階とかだよ? 飛び降りても死ねないじゃん!!」
「いやいや・・・あの点数はやばいだろ。満点が100点で、シルが取った点数が38点でしょ? それは・・・もうやばいよ。逆に何で大佐の言葉でショックを受けなきゃいけないんだ? そんな感受性高かったけ、シルって?」
「やばいを連呼するな〜!! 本当にやばいって思えてくるだろうが!!」
「ほら、やばいって思ってるじゃん」
「ぐぬぬぬ!! ちなみに・・・マシュの点数は・・・?」
「僕? 100点だったけど」
「もう金輪際マシュと喋りません。今まで友達として接してくれてありがとう。お疲れ様でした」
「友達にお疲れ様でしたも何もないないだろって、一人で帰るのかよ!! 今まで待っていた僕の立場は!!??」
騒がしくしながらも、二人仲良く宿舎まで戻るのであった。




