第89話 あ〜死んだ〜!!!
「あ〜!!! 死んだ〜〜!!!!!」
窓から差し込む夕日で、赤く床を染める教室。その中に設置された、11個の机と椅子の一つに腰をかけていたシルは、一際大きな声を漏らした。椅子に座ったまま、凝り固まった筋肉を解すため大きく伸びをする。すると、声だけではなくて、今まで押し留められていた空気すら、口から溢れていった。
「うるさいぞ、シル。この教室にいるのは、お前だけじゃないんだぞ」
「とは言っても、見てくれよマシュ。この教室にいる人の数を」
「あぁ。僕とシルの二人だけだな」
「もう一回聞くけどさ・・・。なんで、僕ら二人だけで、こんなに虚しく学力テストを受けているんだ?」
シルの席の隣に歩み寄ってくるマシュ。そして、はぁ、と小さくため息をこぼして、シルをなだめるような目で見つめた。
「今年の新入生の男女の数。知っているか?」
「男子6人。女子5人だろ? それは、俺だって知っているよ」
「学力テストが困難なほどの怪我を負った学生の数は?」
「9人!」
「な? 僕とシル以外全員だよ。その数字」
「信じられね〜!!!! なんでだよ!? 俺たちだって、あんな死闘を繰り広げて、身体はぼろぼろ。疲れもピークだよ? なのに、学力テスト受けたじゃん!!」
マシュは、宥めるような目線から、冷たい一線に視線の色を変えた。あ、これは・・・結構心にズサっと刺さるようなコメントをするときの目だ。身構えるのが少しでも遅れると、信じられないほどのダメージを負うことになる。
「誰かさんの死闘に巻き込まれたりしなければな〜。怪我する人も少なからず減ったって見方もあるみたいだぞ? 確かに、命を賭けて悪魔なり、オークなりを撃退したことは良いが、その影響まで僕たちは考えていなかっただろ?」
「それは・・・そうだけど・・・」
「次からの課題だよ、それが。誰も傷付けず、それでいて勝つ。これができれば、僕たちは最強だ」
シルの目の前に握り拳を突きつけてくるマシュ。シルも同様の手の形を作り、小さな音をたてて重ね合う。確かな契り、契約書も何もないそれだったが、確かにそこには二人の間には見えぬ鎖が絡まっていた。
「騒がしいな・・・。席に着け、テストを返却する」
ガラガラと教室に耳慣れた音が響くと、脇に数枚の紙を綴じたフォルダーを挟みながら入ってくる筋肉質の男性。いや、訂正。これから指導をしていただく予定の大佐だ。体力テストの時に起きた異常事態の報告を受けているはずなのだが、変わらぬ通常運転。煙を口元から溢しながら、鋭い眼光をサングラスの下に隠していた。
「すいません、直ちに!」
マシュは、そう言うや否やすぐさま自席に着席する。テストを受けていた時と同じ静寂が教室に訪れる。筆記用具を動かす音は響かないが、その代わりにふぅ〜と大佐は息を吐いた。
「テストを返す前に——いくつか確認事項がある。いいか、濁して物事を尋ねるような器用なことは俺にはできない。だから、短い文章で、嘘を言わずして答えろ」
「「はい!!」」
大佐の一言で教室内に緊張感の稲光が走る。自然と、二人の姿勢は背筋を伸ばした。
「まず、マシュ!!」
「はい!!!」
「なぜ・・・デンジュにとどめを刺した。グラウンド内にいた学生からの話では、お前があいつに剣をむけたそうじゃねーか。理由を述べろ」
「デンジュさんは、途中から挙動不審になっていました。最初は、高濃度の瘴気荷長時間当てられたから。だと思いましたが、グラウンドに侵入していた悪魔が放った、洗脳クリーチャーの術中に落ちていたのです。なので、剣を振り抜きました」
「嘘はないな・・・?」
「はい!! もちろんです!!!」
「なら・・・いい。どうせ、侵入者の存在に気づかなかったあいつらには、罰則を与えなければ、と思っていたところだ。このアーミーナイトから追い出すという、罰則をな」
身に覚えのない話が飛び交う中、シルは思わず呆気に取られてしまっていた。そもそも、デンジュさんが洗脳されていたことも、それをマシュが始末したことも、全く聞かされてはいない情報だ。それに、大佐の口ぶりからすると・・・。
「大佐は・・・侵入者の存在に気付いていたんですか?」
「当たり前だ、シル・バーン。お前が気付くずっと前からな」
シルは、そのことについて更に問い詰める必要があると、強く直感が反応していた。




