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第86話 飛行能力を持ちあわせない?

「何をする気なの!!??」


「はぁ・・はぁ・・・。お前をここで殺すんだよ!!」


 暗唱を言い終わると同時に、悪魔は貫通する右手を抜こうと力を入れる。抜く力を支える脚に、血管を浮かび上がらせた。しかし、シルの身体にある大きな穴が、光を浴びることはなかった。体内から溢れる液体で、地面に大きな赤い水溜りを新たに作ることもない。


 なぜなら、悪魔が踏ん張りを入れる場所であり、噴出する染料液の受け皿である地面。それが、シルと悪魔の周りだけ、ポッカリと口を開くように抉り取られたのだ。突如として、惑星のコアに向かって繰り出された連続の重い()()()()により、衝撃に耐えかねるように地盤は降下。結果として、アンの視界から二人の戦士は忽然と姿を消した。


「どうなるのよ・・・この戦いの結末は・・」


 底の見えない穴に向かって呟くが、やはり誰からの返事も返ってくることはなかった。二人の叫び声が反響に反響を繰り返し、分身をしたかのように何度も聞こえてくる。残響を残す、二人の雄叫びはまるで、地の底に眠る怪物のように、このグラウンドを文字通り地面から震わせるのであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『穴の中』


「この死に損ないが!! さっさと、私の手を外して死ねばいいものを!!!」


 自由になり、赤い液体が滴り落ちる右手をヒラヒラさせる悪魔。一瞬、気をアンに向けた矢先に、まさか地面をくり抜かれるとは思わなかった。そのせいで、彼女の命を狙っていた尻尾すら、私の胴体に引かれるようにこの穴に落ちている。


「まぁ。死ぬのは()()()()()()人間だけなんだけどね!」


 翼を上下に揺らす音が穴の中に生まれては、見えない底部に向かって吸い込まれていく。突如として、剣を三叉槍に変形させ、連打を繰り出した人間の姿はどこにも確認することができない。あの連打を、自分に向けられていてはどうなっていたのだろうか。


「この深さを掘るだけの威力——。無傷ではすまなかったかもしれないわね」


 シルが背負った傷以上のものを受けていた可能性も大いにあるだろう。それだけのオーラを、あの三叉槍からは感じた。まるで、私たち闇の一族を殺すためだけに作られたような、そんな空気を纏っていた。


「ふふふ。馬鹿ね・・・だとしても、こんなスコップでも代用できることに、力を使うなんて」


「大したやつだよ、こいつは。あの不利な状況で、お前を貶めるだけの作戦を考え付いたのだから。そしてお前はまんまとそれに引っかかった。お前の負けだ」


「誰!?」


 悪魔は首を一回転させて辺りを確認する。しかし、目が何かを捉えることはなかった。刹那、悪魔の足よりも更に深く、地盤に近い場所から大きな衝撃音と共に粉塵が巻き起こる。それは、悪魔の身体を包み込むだけに止まる勢いではなかった。噴水のように天にまで向かって伸びるそれは、穴という窮屈な場所から脱出すると、そのままグラウンド全体に降り注ぐ。


 悲鳴は・・・起きたのだろうか? 穴の中にいては、それすら聞こえない。いや、聞こえないのはそれが原因ではない。二人の戦士が散らす火花の衝突音。これが、地上の音をかき消していた。


「身に余る威力の連擊。こいつ自身、まだまだ眠った才能を多く秘めているんだ。けど、コントロール下におけるまでの能力として顕在していないんだよ。だから、あのままぶっ放してたら・・。そうだな、少なくとも近くにいた女子生徒は死んでいたな」


 粉塵が晴れる。悪魔は目に入った砂を手で押し出して、僅かに赤く充血した目で周りを見渡した。先程までの光景と異なるもの。それは、瞬時に悪魔の目にも異物として捉えられた。


「槍が浮遊している・・・?」


 そう視認したのも束の間。青白い光を放ちながらゆらゆらと浮遊するそれは、何者かの命令を受けたように空中で加速。そして、そのまま悪魔の両目を同時に貫いた。


「アァァぁぁァァァァァァァ!!!!!!」


 割れんばかりの悲鳴。命令を下した男は、顔を歪めるとそのまま歪んだ口元で舌打ちを溢す。


「ワーワー騒ぐな。耳障りだ」


「ふぅー・・っ!! ふぅー・・・・っ!!!!」


 瘴気による脅威の再生速度で悪魔は両眼を構成しなおす。そして、新たに生まれた目で、冷徹な口ぶりを見せるヤツを映し出した。


「バーン・シル!!! あんた、タダじゃ殺さないからね!!!!!」


 悪魔の目を貫き、穴の外周を回った槍に綺麗に足を揃えて立っている。通常空を飛ぶ手段を持ち合わせない人間にも関わらず、その男はそれを嘲笑うかのようだ。痛みに身体を曲げる飛行中の悪魔を、上から見下ろしていた。



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