第85話 シルの本領発揮
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「クッソ・・・!!」
「中々しぶといわね・・・!」
お互いの身体を、互いの攻撃で蝕みさせる。シルは貫通する手によるダメージ、そして悪魔は身体を内部から崩壊させる連鎖の斬撃。超至近距離で二人は顔を突き合わせ、武器を構えたまま静止していた。どちらが有利なのか、それすらも分からない。ただ、間近でそれを見ているアンは、足を震わせることしかできなかった。
「何で・・この二人は笑っているの・・?」
両者の攻撃は、心臓を片手で掴んでいる状況に例えても、そう的外れなことはないだろう。まるで、命を残量を連想させる血液の放出も、止まることを知らない。すでに、二人の足場は赤色と緑色が重なり合い、地表の色と色と同化している。
にもかかわらず、両者は互いに笑みを浮かべていた。死の淵を覗くのが怖くないかのように。生物なら、少なからず畏怖を抱く死という恐怖を覆しているかのように。
「これが・・・闇の一族と戦うということなのかしらね。前線に出れば、こんな現実が次々に待ち受けているのね」
アンは少し顔を下に向けた。そんな戦場で戦うのは無理だ、と心が叫んでいた。一時は命を捨てたと、自分自身思っていた。でも、それはあくまで口先だけ。結局、生に自分も取り憑かれていた。周りで騒ぐ新入生と、何ら自分は変わりない。その現実が、アンの心を暗く塗りつぶす。
「顔を上げなさいよ! まだ勝負はついてないでしょ!!」
「カーラ・・?」
バスにもたれ、目に自分を逆向きに移すカーラの姿が目に入る。何かを必死に訴えようとしてくる勢いは、思わずアンの身体を震わす。先ほどまで意識を失っていたとは思えない。それほどのオーラを身体中に纏わせながら、彼女は口を開く。
「あなたを助けるために、彼は今血を流しているんでしょ!? それなのに、助けを求めた本人が、戦いから目を逸らすなんて許される行為じゃないわよ!!」
二人の戦いを再び目に映した時、飛び込んでくるシルの苦悶の顔。痛みに耐え、その上でトドメの一撃をどのタイミングで放とうか思案している様子だ。だが、それは悪魔も同じ。今行っている攻撃が、決定打になっていないと両者とも分かっているのだ。
そんな中、アンは奇妙な動きをシルに見た。上半身ではなく、それは下半身に起きている。地面を抉らし、その地に降臨し体幹を保つ脚。それが、踏ん張る力の反動とは別に、微かに震えていた。
「私は・・・何を考えていたのかしら。そうよ、この世に生まれて死ぬのが怖くない人なんて、誰もいるはずないじゃない」
「さっきからガヤがうるさいわね・・。死に損ないは死に損ないらしく、黙って死んでれば良いのよ!!!」
アンの方に目線を一度向けると、悪魔は空いた尻尾を突如としてしならせ、アン目掛けて伸ばしてくる。尻尾についていた真っ赤な鮮血が、動くたびに辺りのグラウンドを赤く点状に汚す。シルの攻撃を喰らっているとは感じさせないほど、機敏な動きが瞬く間にアンの命の間合いに侵入した。
「やっ・・・と。隙を見せてくれたな・・悪魔め!!!!!」
スゥと、息を整える。そして、早口に、それでいて神妙に暗唱を唱え始めた。
『悲しみに眠る我が武器よ。後悔の海に沈む我が武器よ。今一度、そなたの力を貸してほしい。我が奮う力は誰のため。友の為であり、世界のためのみ。奪う命は誰のもの。それすなわち、神の定める寿命を奪うものなり!!』
「 悲しみより出でる獅子の三叉 !!!」
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