第82話 応えてくれない力
「「キャァァァ!!!!!!!」」
溢れんばかりの悲鳴が、至近距離で聞こえたかと思うと、一瞬の内にその声は遠く聞こえる。まるで、木霊を連想させるような反響具合。それが、アンの耳にまとわりついて、しばらくの間離れそうになかった。
「このままだと——あのバスの中にいる下等生物は死に晒すわね。ざっと、十人は超えるでしょうね。まぁ、首の数が増えて私は嬉しいんだけど、あなたはどうかしら?」
「クズね・・・! ほんとっ!!」
正真正銘の悪魔の囁き。アンは横目で倒れているカーラの姿を確認する。だが、依然として一向に動く気配を見せない彼女に、アンは軽く舌打ちをした。
アンに残された選択肢は二つしかなかった。バスの中の学生を救いつつ、悪魔の介入を防ぐ方法がだ。その一つが、カーラと協力して救うという作戦だった。とは言っても、カーラの能力ではバスの乗客を救うことはできないだろう。光を集めての攻撃で悪魔を邪魔しつつ、アンの能力でバスと地面との衝突を防ぐ。これが、恐らく最善手であることは、間違いなかった。
だが、カーラの様子を見ていると、その手で実行に移すのは不可能に近い。だったら、次の一手。アンだけで、一人二役をこなしてみせるしかなかった。
「上手くいくと良いけど・・・!」
アンは、自分の右手に力を集めると共に、集中力を高める。騒音は集中力の前に消し去られ、すでに頬の産毛を靡かす温かな風すら存在を忘れられたかのようだ。脳に情報として伝達されることなく、空虚となって発散された。
「誰が為に靡く風であるか!!!」
右手を起点として、突風が竜巻のように集められる。先程のように、ただ集めて開放するだけの攻撃ではない。突風を極限までコントロールし、自分の意のままに操れる風として、機能を持たせていた。
「はっはっァァァ!!! やっぱり!! そう来るわよね!!! だから、人間は弱いのよ!!!」
地面が抉れるほど深く踏み込んで、悪魔はバスに追いつくために利用した音速の移動を開始。アンの視界では捉えられない速度を出しながら、アンを中心に定め旋回しはじめる。風を切り裂く音が発生するたびに、そちらに意識を奪われそうになる。
というのも、アンが集めようとした風が、悪魔の動きによってかき乱されるようだ。先ほどよりも、風が集まるのが遅い。
にも関わらず、時は待つことを知らないように、刻一刻と迫ってくる。バスは、すでに最高域まで軌道を描き切ったようで、今は降下の曲線を真っ逆さまに移行していた。重力も相まって、その速度は浮上している時よりも、はるかに早く目に映る。
「さぁ、早くしないとあなただけじゃなくて、みんな死んじゃうわよ!!」
「まだ・・・溜まらないの・・? 早く溜まってよ!!!!」
右手に集まる風はアンの叫びに応えることはない。それどころか、より一層集まる速度を落とし、渦巻く風として息をするのみであった。




