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第80話 誰かの姿にそっくり

「はー、つまらない。張り合いのない雑魚をヤるのが一番退屈で、しんどいんだよね」


 勝負は一瞬にして肩ついた。もちろん、アンとカーラの敗北の結末でだ。それでも、かなり健闘した方だと言えるだろうか。時間にして5分ほどは結果として稼ぐことができたのだから。


だが、その代償はあまりにも大きい。アンは左手の負傷に加え、今や右足すらまともに動かさないほどのダメージを負っている。骨折はしていないだろう。だが、動かすだけで悲鳴をあげてしまうような激痛が走る。


一方で、カーラもまた再起不能なレベルで攻撃を喰らい続けた。特に、頭部へのダメージが激しい。立ち上がれないどころか、何をしていなくとも全身が痙攣し、それを止めることができない身体になっていた。


「大層な名前も、無理して振り絞った勇気も! 全て!! 水の泡!!! あなた達の実力なんて、そんなものなのよ。敵うはずもないのに、馬鹿みたいに立ち向かっちゃって!!!!」


 叫ぶ悪魔の声は、カーラの耳に届いているだろうか。いや、きっと届いていない。自分の矜持を侮辱されていながら、そのまま黙っているなんて彼女は死んでもしないだろう。でも、それをしないと言うことは、きっと意識が飛んでいるのだ。



「って。私も、もうどうにもすることができないんだけどね・・・」


 誰にも聴こえることのない声量が、この戦場に浮かんでは、一瞬にして、悲鳴でかき消される。アンの身にも命の危機が迫っているだろう。だが、あえてアンは強く目を瞑った。まるで、自分の短い命にケジメをつけるように。


 戦闘中も鳴り響いていた、鼓膜を破りそうな劈く悲鳴。それも、暗闇の中にいては、少し小さいBGMのようにしか聞こえない。真っ暗な世界の中では、今までの記憶が蘇っては、シャボン玉のように発散していく。それは、幼少期の頃から始まり、加速するように時間を取ると、昨日の出来事も映し出された。


 ルームメイトになった男の子が、大きくフォーカスされる。これでお別れだと思うと、なんだか寂しい気持ちに包まれる。昨日、頑張って関係の改善に努めようと、決心したはずなのにな。


朝。彼のあんな姿を見て、私は思わず彼に吸い寄せられるように、彼の手を握りに動いていた。震えていた彼。その時は、何で震えていたのか。そして、何であんなことを口走ったのかも分からなかった。


だが、今詩の淵側まで追いやられて考えてみると、あれは今のアンが陥っている様子と瓜二つなように思える。私の身体も無様に震え、他の新入生も顔を青ざめさせ、震えながらにして逃げている。まるで、()()()()()()()()()()()()()()かのように。


「もしかして・・・彼は、こうなることが分かっていたというの?」


 深く閉ざした心の闇を追い払い、閉ざされた瞼を勢いよく開け、外で起こっている現状を瞬時に把握する。そして、彼の言葉をもう一度正確に思い出してみる。


「命の危機になったら、迷わず俺に助けを求めてくれって言ってたわよね」


 そう呟くアン。手っ取り早く任務を終わらせようと、カーラとの距離を縮めていた悪魔と視線が交錯する。しかし、もう怯えて目を背けるアンではない。じっと睨み返すと、悪魔は突然笑みを溢しはじめる。


「あら? もしかして、まだ私とやりたいないのかしら? そんな、ボロボロな身体で」


 悪魔は、尻尾を一度強く地面に叩きつける。砂塵が巻き起こり、アンは思わず目を細める。だが、悪魔の狙いは目眩しにしか過ぎない。目標をアンに切り替え、一息の間にアンの超至近距離まで距離を縮める。調子が上がってきたのか、溢れる荒い息遣いが、アンにかかり、強烈な不快感を与えてくる。


「なんで急にピッチが上がったの? あなたさっきまで、命を諦めて目瞑ってたじゃない」


「その姿が、今日見た誰かさんにそっくりだってことに、今更気付いてね」


 作り笑顔でそう言い返すと、次第に悪魔の顔が赤くなっていく。


「まさか、バーン・シルのことを話しているのかしら。だとしたら、かなり不愉快ね」


 荒い息遣いがさらに酷くなり、噛み締めた歯の隙間から唾液が流れ落ちた。



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