第62話 死の芸術
評価、ブックマークを熱望している今日この頃です、ぜひよろしくお願いしたいです!!
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「キャア⋯⋯ ——」
大きな声が上がることはなかった。いや、正確にはか細い声が出ただけで、それが悲鳴となって空気を震わせる前に、文字通り喉元から声の道筋を掻き切った。優に10mは離れていただろうその距離を、一瞬にして地面が抉れるほどの踏み込みで潰し、瞬く間に声の持ち主の命を奪ったのだ。
切断面を起点として支えられていた頭部が、ゆっくりとネチネチ音を立てながら重力に従って、地上に落下する。そして、重い頭が地面に落ちた音をかき消すかのように、周りから盛大な悲鳴が彼女のトカゲのように鋭利に尖り勃った耳に入ってきた。
「「キャアァァァァ!!!」」
騒音としか言えない音を立てながら、その場にいた新入生やら実行委員と名乗る、先ほどまで平和ボケをしていた下等な生物が、我先にと急いで立ち去ろうと駆け出す。
「ちょっと!! 今押したでしょ?!!」
「うるさい!! あんたが邪魔な場所に突っ立てただけじゃない!! 低脳はさっさと有能な私に場所を譲って代わりに死んでおきなさいよ!!!」
無駄としか言えない罵詈雑言があちこちから上がっては、次第にそれが火をつけられたように熱を帯び、グラウンド全体をその熱で覆い隠す。ある者は足を絡ませ、受け身を取ることも叶わず無様にその場に倒れ込み、またある者は命の危機に瀕して気を荒くし、意味もなく他の人にその感情をぶつける。
この状態を一言で表現するならば、この世の終焉。避けられない運命に直面した時、人間がどのような行動を取るのか、それが今目の前のグラウンド内で繰り広げられていた。
この調子だと、誰かが命惜しさに誰かを攻撃するのではないだろうか。私がしたことは、正体を知られて彼女を切り殺しただけ。それ以外は、まだ何も動いていない。だが、この現場の混乱する様を見て、そんな面白そうな試練を彼女たちに与えてみるのも一興かもしれない、と思いを馳せてしまう。まぁ、そんなことしてたら、私が直接この手で殺す頭数が減るだけだから、絶対にしないけど。
彼女の正体に最後まで気づかなかった愚かな人間の姿を流し目で見た後に、逃げゆく無様な生人から、何も話さず膝間ついて倒れていく死体の方に目を移す。既に切り離された脳に血液を送ろうと、無駄に働く心臓から圧をかけられ動脈を通り酸素を含んだ赤い血が、途中で切断された血管から溢れ出ている。
水道の蛇口を閉め忘れたかのように止まることなく流れるそれは、倒れ込んだ場所に赤い水たまりを作る。この光景はあれだ。地上に描く血液という絵の具を使って自由に表現する、人間という脆い生き物の死に様。
「あー、美しい⋯⋯ !」
ヤッた瞬間に噴水のように吹き上がる血を見るのも至極の眼福。だが、無駄な空気を吸わず、汚い言葉を話さない状態にも関わらず溢れ出る様を見るのも、これはこれで至極の極みであった。次第に切断面から溢れ出る血液の勢いに陰りが見え始める。時間にしては一瞬。だが、その僅かな時間に、ここまで私の感情に強く語りかけ、鮮明に記憶させるなんて。
下等な生き物であることは揺るぎないが、この芸術的に美しい神秘の身体構造だけは、闇の一族よりも優れていると彼女は考えていた。闇の一族の緑色の血液では、ここまでの美しさは現れない。はぁ。そんな感傷に浸っていたら、気がつけば目の前の彼女に既に死の輝きは色褪せている。次だ。もう一度、この気持ちを味わうのだ!




