第44話 いやに目についた生き物
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全ての事象より早く動け。重力など皆無の世界に誘われた自分をありのまま受け入れた先に手に入れるは奴らの死。万物の動きを遅きに捉え、御身だけを高速の世界に。
先ほどよりも断然早く動けている感覚に陥る。あんなに手こずった健をタチ切るのもものの数秒の出来事で終わってしまう。先ほどと全く同様にオークは地面に膝を着いた。立ち込める砂塵。だが、それすらも視界を奪うことはない。ただ、砂が視界を奪う前に移動すれば済むだけの話だ。
「高速に切りきざめ、そして死へと誘え」
跪くと同時に、オークの盛り上がった筋肉を足場にして倒れゆくオークの身体を駆け上がる。そのままの速度で一度もそれを落とすことなく、シルはオークの首に剣を突き刺し、何度も切り刻む。
血が切った箇所から刺すたびに何度も湧き出る。すでに濡れてはいたが、気がつけば身体はオークのそれでより一層びしょ濡れになっていた。だが、シルはその手を緩めることはない。愛剣も振り上げるたび体液を薙ぎ払い、また太陽の光を乱反射さえ、心地良さそうに何度もシルの思うがままオークの身体にめり込んでいく。
何度も、何度も。次第に手応えがなくなっていくと、いつしかシルはついさっきまでは頭があった場所の虚空を何度も剣で往復させていた。
「終わったか」
ゆっくりと戦いの熱が冷めていくと同時に、周りの時間も緩やかに帳尻を合わすかの如く、早くなっていき次第にいつもの時間の流れに戻っていく。身体中に軋むように痛みが走るが、なんて事のない表情を取り繕いシルはマシュ達がいる場所目掛けて笑顔を見せる。マシュとデンジュはそれを確認してから、こちら側に拳を突き上げて
いるが、デンジュはどうやらほっとしたようでその場で何度も胸を撫で下ろしていた。
それを見た後、いつも通り返り血まみれの剣を一払いしてから鞘に収める。もうすでにこと切れたオークの身体から飛び降りると、下ではマシュとデンジュがこちら側まで移動して待っていてくれていた。
「流石だな、シルは」
そう言いながら笑みをこぼすマシュにシルも同じ様に応える。
「まさか、本当に倒しちゃうとはね。あー、こんなドキドキが続いたら心臓もたないよ」
「また足震えてますよ、デンジュさん」
三人の中に自然と生き延びたという安堵が広まっていく。生きるか、死ぬかの戦闘がどれほど神経をすり減らすのか、そして解放された時どれだけ心にゆとりが生まれるのかこの場にいる人の中では3人以外は知る由もないだろう。皆んなやり切ったという表情が顔に現れていた。遠くの隅で固まっていた他のメンバーもわぁと歓声が湧いている。彼らも恐怖から解放されたみたいであった。
「あれがお前の言ってた紛れ込んだやつって言うことでいいんだよな」
マシュは改まってシルに聞いてくる。
「あー多分な。しかし、疲れた。身体テストの後にこれは身体に響くよ」
「確かにそうだね。でも、シル君はテストを全て終わってたじゃないか。そっちの君は最後瘴気保有限界テストを受けたか、受ける前だったと記憶しているんだけど、どうなんだい?」
「まじか、もし本当に残ってたら大変だな、マシュ。そうそう俺も最後に瘴気保有限界のテストを受けたんだった。あれは何故か鍵が閉められて驚いたな。そこまで厳重なんだと思ったよ。昔受けた時とは大違いだ」
そういうシルにマシュは訝しげに首を傾ける。
「僕もそのテストを受け終わった直後に大きな衝撃音が聞こえたんで驚いたんですよ。だから、テストは全て終わっています。記録シートは——どっかに置いたんですけど、もしかしたらこの戦闘で吹き飛ばされたかも知れません。手元に今ありませんから。
でも、シル。僕が瘴気保有限界テストを受けた時は鍵なんてかけられなかったけどなー。デンジュさん途中で方式を変えられたのですか?」
「いや、そんな指示は出してないけど。シル君の勘違いじゃないのか?」
「いや、そんなはずは」
言いながらシルはついさっきまで瘴気保有限界のテスト部屋が設置されていた場所に目をやる。オークが現れた場所だからその破壊の様は目も当てられないほどだ。しかし、そこに小さな紫色のスライム状の生き物がいるのが何故かいやに目に付いた。
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