第36話 潜在的な意識
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「バカが。地面に跪け!!」
砂塵から辛くも抜け出すことが叶うと、シルは冷静に狙いの場所にたどり着く。そこは——足首。二足歩行を行う生物にとって、歩行機能を支えていると言っても過言ではないほど重要となる器官の一つ。シルは最初からそこだけに狙いを絞り、行動にうつしていたのだ。
はぁはぁはぁ。呼吸がいつものように行うことができない。肺まで空気は侵入するが、表面上をなぞるだけでそのまま吐き出しているような感覚。こんな命のやり取りという非日常の体験をしていることに起因するのか、気持ちが高揚しているのだろうか、自分でもイマイチ理解できない感情に陥る。
だが、確実に言えることは一つだけある。それは、心拍数が平常よりも明らかに高い数値を出しているということだ。先ほどから胸を張り裂けそうなほど昂る鼓動を抑えることができない。
胸を押さえながら、そこに辿り着いたシルは大きく剣を振りかぶり、勢いよく振り下ろす。切先の矛先は人間でいう健の筋の切断。剣が皮膚に滑らかにめり込み、シルは個人的に心地よいという感覚を覚えながら、名残惜しく思うが勢いよく振り抜いた。吹き上がる大量の血液と呼んでいいのか分からない緑色の体液が辺りを一瞬にして染め上げる。
それと時を同じくして轟くオークの咆哮。耳を塞がなければ頭が割れそうになるほどの声量だ。だが、シルの意識はそれに向くことはなかった。グラウンドにいる全員が同様の行動に出て、両手で顔を歪めながた咆哮に耐えているというのに、シルはオークから溢れ出る血液にのみ意識が傾いていた。
浴びれば浴びるほど快楽だと認識してしまう。血生臭い匂いを強烈に放つ液体を肌に染み込ませることが謎の優越感を感じさせる。無意識的に、いや潜在的にそう感じてしまう脳に、シルは理性の中で勢いよく舌打ちをした。
「筋を切っても・・・。一向に体勢が崩れる気配がないな」
煩悩を振り切り、上を見上げるとしっかりとオークと目があってしまった。健を切ったにも関わらず、体勢がぐらりとも傾かない。ただじっとシルの方を見下ろしている。瞬間にシルは悟った。ここまでオークに近づいてしまったシルに奴から攻撃を繰り出されると躱せる余地がないことに。
「これは——やばっ!!!」
振りかぶる動作もないオークにとってのただのジャブ。それゆえに、先程の大振りの拳と比べると攻撃速度が今までの比ではない。それが、シル目掛けて両手から幾度も繰り出されるのを退避の場所を探していた視界の隅の方に僅かに捉えた。
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