第30話 彼方の思い出
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試験室とグラウンドを隔てる扉の少し前に、設置されている一つの横長の机。そこに設けられた椅子に、記録委員の女性が物静かに着席していた。眼鏡をかけており知的な印象が言葉を話さずとも伝わってくる。その雰囲気は、先ほどまでの底抜けに明るい実行委員の人たちと、違う世界の住人であるようであった。
机の上には筆記用具に加えて、飲み物であったり書類なども置かれている。乱雑に散らかるそれらに、シルは一瞥すると視界の隅に何か煌めくものを捉えた。
警戒心を強めていたシルは、それが一体何なのか瞬時に首を横に動かして確認する。だが、またもやこれが勇足になってしまい、人知れず肩を落とした。視界の先にあったのは、薄いピンク色の鞘に収まった剣。端の方に倒すようにして置かれており、恐らく彼女の物と思われる。それがきらりと太陽の光を、一人虚しく反射させていただけだった。
そんな様子を彼女は咎めることはない。それどころか、こちら側を一切見ずに、俯き加減ぎみに視線を落としている。
「あの・・これが、記録シートです・・」
無言で受け取り、しばらくの間、確認事項を一通り確認する。確認が終わったのかどうかも分からないまま、一度も口を開くことなく手で中に入るよう指示される。シルは不躾な態度にモヤっとするものを感じながらも、なされるがまま試験室の中に入っていった。
人当たりの悪さは感じたが、早くこのテストを終わらせたいという気持ちが勝っていたのだ。なので、それをとやかく問い詰める考えは浮かぶことすらなかった。ただ、今までの記録委員の人とここまで印象が変わるのだな、とシルの頭の中で鮮明に記憶されることにはなったが。
「——始めます」
蚊の鳴くような、か細い声が扉越しで聞こえてくる。耳を済まさなければ聞こえないほどの音で合ったが、試験室の中が無音だったからだろうか。その声はやけに、鼓膜を震わせた。
ドアからカチャと鍵が掛けられる音が聞こえてくる。万全の安全を期すとは、外の看板にも記載されていたが、そこまで厳重になるのかと、シルは頭を傾げさせる。しかし、そんなことを考えていたのは、ほんの一時の合間であった。
瘴気を送り込むパイプが繋げられる通気口しかない狭い部屋は、窓ひとつあるはずもなく、一瞬の内に昼夜を逆転させたように暗闇に包まれている。
「ここまで暗闇にする必要性があるのな?」
シルは、疑問を漏らすが、それに対して返答がくることはない。窓の隙間から瘴気が漏れる可能性を危惧しているのかもしれない。そんなこじつけで今の状況では、無理矢理理解するしかなかった。
だが、この狭い部屋の中でもし万が一の事故が起きた場合どうするのだろうか。窓もない、鍵もかけられている。現状、詳細の情報を外から入手することが困難になってしまう方が、より危険度を増すのではないかと思わなくもない。あくまで、いつも以上に周りの事象に神経を尖らせている、今だからこそ思うことかもしれないが。
「そういえば、昔の時は鍵までは閉めなかったような・・・」
ふと、昔これと同様のテストを受けた時のことを思い出す。あの時は、今よりもずっと幼かったが、一人で暗闇に包まれた部屋の中で一定期間過ごすことに心からの恐怖を体感したことを今でも覚えている。テストが終わった時、もしかしたらシルは目に涙を浮かべていたかもしれない。
だが、扉が開かれ、開放されたそれから光が差し込み、一番に飛び込むマシュやテストを受けさしてくれたあの人の笑った顔が何よりも心を安堵させたものだ。その記憶が今鮮明にシルの頭の中で再生された。
そうだ、あの時は外から、終わったぞ、と声をかけられ自分の意思で外に出たような気がする。いや、きっとそうだ。鍵なんてものは最初から取り付けられていなかった。
「時代の移り変わりと共に、テストの形式も変わったのかな?」
そう呟いた瞬間、フシューという音を立てながらパイプの管を通って紫色に着色された瘴気が部屋に流れ込み、部屋を充満させていく。もちろん、シル自身は暗闇で視界が奪われているため、それを視覚から確認することは叶わない。だが、万が一瘴気が漏れる事故が起きた際にもすぐに視認できるよう、瘴気を特別な方法で着色させていると注意事項の欄にも記載されていた。
「早く終わってくれよ⋯⋯ 」
逸る気持ちを抑えながら、試験が一秒でも早く終わることを心からシルは待ち望んだ。
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