第27話 耳元での告白
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新入生たちの一連の行動は、少しでも身体を温めておきたいのか。それとも、はち切れんばかりの緊張感を、ただ動かすことで発散しているだけなのか。見ている分には、どちらとでも取ることができた。
「ふぅ〜。落ち着け、俺。こんな序盤で尻尾を出すような奴が、侵入者として選ばれるわけがないだろう・・・」
逸る気持ち。シルはため息を長く漏らすと、自分自身に対しても毒を吐く。
「しかし・・・。皆んな結構本気で準備運動するんだな・・」
そんな彼らを他所目に、シルも何かしらの準備運動をしておいた方が良いと思う気持ちが、生まれることは生まれた。だが、如何せん偽物を見分けるのに精一杯で身体を動かす気にはなれない。
この中の誰かが闇の一族だと思うと、新入生たちに向けた疑惑の目線を外すことすら躊躇われるのだ。この後、ほんの数分後に自分も体力テストを受ける必要がある。だが、実際のところそんなテストを受けるような浮かれた気分には、到底慣れそうになかった。
「随分余裕をカマしているんだな。シルがそんなに持久走に自身があったというのを、生憎、僕は記憶していないんだけど〜。どちらかというとその逆。いつも遅れて、僕の後ろをへばりながら付いてきていた思い出しかないが?」
見かねたマシュが、やれやれといった感じで首を横に振りながら、シルに話しかけてくる。こちらに来ながら手首をブラブラさせたり、両足首を回しているところを見ると、マシュの方は大分出来上がっているみたいだ。身体から溢れ出るやる気は、シルをより一層気後れさせる。
だがその動きにもどこか陰りが見え隠れしていた。いつもの彼の俊敏さは見られない。それどころか、マシュともあろう人が、他の新入生同様どこか硬い動きをしているいるようにさえ思えた。
マシュもそれに気づいているようで、届く範囲の筋肉を直接手で揉むことでそれを少しでも和らげようと努めている。しかし、一度身体にこびり付いた緊張を解かすのは容易ではなさそうだ。何度も力を変えながら揉んではいるが、その手の動きが止まる事はない。
この場にいる全員に平等に緊張が襲いかかっているのだ。そして、このテストに向けて、全員が全力で挑もうとしている。そんなに真剣に紛れ込まれたら、余計に忍び込んでいる闇の一族の正体が掴みづらい。この中の一人でも、怪しい動きをしていたら分かり易いものなんだが。
「ちょっと気になることがあってな。そっちが気になっちゃって、今は、他に余分な体力を使おうという気に、どうしてもならないんだ。それに、俺が遅れていたのはあくまで短距離走の話だ。長距離では断固ないことを、ここに弁解しておく」
「相変わらず、負けず嫌いなやつだな。それに、気になることって言ったか? そういえば、朝も僕に何か話しかけたそうな顔をしていたよな。何かあったのか?」
シルは、辺りをいかにも自然な首の動きで見渡した。筋肉を解す準備運動に見せかけ、こちら側を注視する視線を探す。誰かに聞かれることを警戒したが、シル達の近くには、身体を動かしている新入生の影は見えない。
皆んなが、それぞれの運動に精を出していて、こちらの方など誰も意識していないようだった。それを確信してから、シルはそっとマシュの耳元に顔を近づけ、限りなく小さな声でつぶやく。
「マシュ、驚かず聞いてくれ。このグラウンド内に、闇の一族が紛れ込んでいる可能性があるんだ。それもタチが悪いことに、この中の新入生の誰かに変装してな」
声を潜めた突然の告白。マシュは思わず目を大きくして、シルの顔を真正面から見つめる。
「それは確かなのか?思い過ごしとかじゃなくて」
「確かだ。ただそいつが男子と女子、どちらのグラウンドに隠れているのか、それすらも分かってないけどな。今いる学生で不穏な動きは見逃していないつもりだ。それに、皆んな今からの長距離走に集中している。誰も手を抜いているようにはどうしても見えない。だから・・・はっきり言って手がかりゼロ。お手上げ状態だよ」
「集中していないやつは、僕の目の前にもいるけどな」
はぁ、とシルの目の前でマシュは小さく呟いてから、あからさまに大きなため息をつく。訳も分からず吐かれた溜息に、今度は反対にシルの方が、目を大きく見開く羽目になってしまう。
「な、何だよ。いきなり」
「それで、朝変な態度を取ったんだなって思ってさ。あの子にも、ちゃんと礼言っとけよ。シルのこと心配してたみたいだしな。というか、お前たち1日で距離縮めすぎな。ちょっと羨ましかったぞ!」
「会話するのも、部屋では禁止されているんだけどな」
最後の言葉をマシュには聞かれない様な小声で溢してから、遅い準備運動をシルは取り始めた。準備運動といっても足首を回したりするだけだ。一通り身体を柔らかくしてから、既に何人かが集まっているスタートラインの方目掛けて歩き始めた。
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