八話 始祖鳥ジャパン③
最終話です
サーブで崩せるか否か。女子バレーの要である。
入らないサーブは相手の儲けとなる為、サーブミスはどの競技においても御法度である。
「時代劇」の一言と共にトメがリビングへと戻った。
貞夫が「おお、そうだった」とリモコンを手にした。
険しい顔の絵里子。
リモコンがテレビに向けられる。
一瞬の間。チャンネルは変わらない。
「お?」と貞夫がリモコンを叩いた。
そしてもう一度リモコンをテレビへと向ける。
やはりチャンネルは変わらない。
絵里子は由奈を見た。
由奈の脇に置いてあった焼け野原のチラシの角が破けて無くなっていた。
そう。由奈がこっそり電池に挟んだのである。
「あ、本体で変えますね」
由奈が席を立った。
細くしなやかな指が、テレビの横のボタンの上をなぞる。
ぴっぴっとチャンネルが変えられる。
そして素早くチャンネルが切り変わり続けるが、時代劇らしき画面は映し出されなかった。
「どうやら今日はやってないみたいですね」
「ほか。なら風呂にすっか」
納得したトメが風呂へと向かう。
貞夫も後に続いた。
チャンネルはバレーへと戻り、テクニカルタイムへと突入した。どうやら防戦一方のようだった。
「お義母さん」
「あなた……まさか」
絵里子は戸惑っていた。
由奈がここまで協力的で、そして手が早いことに。
「5チャンネルから4、3、2、1、8チャンネルまで来て、1、2、3、4、5とロンダリングしたのね」
「ご名答です。そして──」
由奈は絵里子の顔をまじまじと見つめた。
「始祖鳥ジャパンはここからです」
「そう、ね」
絵里子は既に酔ってソファで倒れている憲三を床に転がした。
始祖鳥ジャパン応援の指定席に体を沈め、お気に入りのポテチと酎ハイをセットし、嬉々として声を出し始めた。
由奈は気付いていた。
あの晴れ舞台に憧れていたのは、由奈だけではない。絵里子もなのだ。
春高バレー準優勝で満足し足りるような人ではない。それに気付いたとき、絵里子がそこまで始祖鳥ジャパンを応援するのには、訳がある。そう思ったのだ。
「お義母さんが応援しているのは始祖鳥ジャパンだけじゃない。あの時の自分の事も応援していたの」
「ふぅん」
「…………」
部屋で寝転がりながら漫画を読む洋平に、由奈は蹴りを入れた。
「そう思ったらね、私も自然と始祖鳥ジャパンを応援していたの」
メンバー入りを目指して夜遅くまでサーブの練習を続けた若き日のその背中に、そっと由奈の言葉が独り言のように溶けていった。
リビングから絵里子の喜ばしい声が聞こえた。どうやら始祖鳥ジャパンが逆転勝利を決めたようだ。
今夜の電話は長くなりそうだ。
由奈はベッドに入り、洋平の背中にそっと寄り添った。
読んで頂きまして、誠にありがとうございました!
この嫁姑戦争で倍返しパロディを閃いてから書き終えるまでに長い時間がかかりましたが、こうして無事投稿できたことに感謝致します。