第五話 皇子の嘘
グレゴリオ殿下達と別れた後、ふたりで裏庭へ向かいながら私はイバン様に尋ねました。
「イバン様……本当にマリグノ様を地獄へ送ったりはなさいませんよね?」
「え? 頬にキスしてくれるの? やったー!」
「しません。婚約しても結婚するまでは節度を守るものですよ」
「あはは、わかってる。今のところ送る予定はないよ。でも送る力を持っているのは事実だ。僕はそういうことで嘘はつかないよ」
「知っています。イバン様がつくのは、人を傷つけたり貶めたりしない可愛い嘘です」
「そう言ってくれると嬉しいな。……今日はね、栗鼠の妖精捕まえちゃった」
「うふふ。後で見せてくださいね」
「僕の婚約者になってくれてありがとう。嬉しいよ、留学してきた僕を世話係として面倒を見てくれてたときから君が好きだったんだ」
「……こちらこそ婚約してくださってありがとうございます」
前から私を好きだというのは、優しい嘘だと思いました。
第一王子のグレゴリオ殿下が王太子候補となるために公爵家の後ろ盾を必要としているように、第五皇子のイバン様にも他国の公爵令嬢の婚約者が必要な理由があるのでしょう。
貴族の婚約や結婚などみんなそうです。
「ほーら」
「まあ、可愛いですわっ!」
池のほとりに並んで腰かけて、イバン様が手を開きました。
そこには昨日の兎とは違う感じの翼をもつ栗鼠のメレンゲがありました。
もちろん白い腹毛と茶色い毛皮の味は違いますし、同じ色に見える頭と尻尾と背中の部分も練り込む木の実の粉(今日は木の実の粉を練り込んでいるのだそうです)を変えることで味と食感を変えているのだと言います。
「今日も頭からガブッと豪快に行くの?」
「……尻尾から食べます」
「ええー、ボクの自慢の尻尾から食べちゃうのー?」
「もう! 裏声で栗鼠の振りをするのはやめてください」
冬なのに、ふたりで過ごす時間は温かく感じます。
それから卒業までの間、イバン様は毎日お菓子を持ってきてくださいました。いつもの硬いメレンゲだと思って触ったら、柔らかいマシュマロで驚かされたりもしました。
私の婚約者は嘘つき皇子で、とてもとても優しい方です。




