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銀の弾と赤い血液より、銀の食器と赤いトマトスープを ③

遅くなりました。続きです。

前書きと後書きに何か書こうとしてたはずなのに毎回忘れちゃう現象何なんですかね?だいたい後で思い出して書き加えます。

 千代巳


 おかしい。

 ユイレちゃんが例の小屋の調査に行ってから戻ってこない。

 今何時だ。……もう5時だ。いつもは5時までにはに戻って来るはずなのに。

 とりあえず電話を……。


 『おかけになった電話は、電波の届かない場所にあるか――』

 「……出ないか」


 機械音に耳を傾ける事もなく、途中で切る。


 「はあ……」


 少しの焦りを覚え、髪を搔きながら手元にあった牛乳パックに手をのばす。

 ……そうだ。そういえばユイレちゃんに「私がレストランに行ってる間に何か連絡があったら」とメモをもらっていた記憶がある。

 確かデスクの引き出しに……あった。

 牛乳を飲みながらメモを見ると、そこには電話番号が書いてあった。


 「奇妙な番号だな」


 090からでも080からでも052からでも、どれからも始まらない電話番号。

 まさか例の小屋(レストラン)の電話番号か?

 とりあえずかけてみるか……?何らかの異常性の影響を受けてしまうかもしれないが。ユイレちゃんが大丈夫なら私も大丈夫だろう。多分。


 『お電話ありがとうございます。ねこのscpレストランです。千代巳(ちよみ)透香(とうか)様ですね。いきなりで大変申し訳ありませんが、少しお時間よろしいでしょうか』


 一瞬声を失ってしまう。

 それはなぜ自分の名前を知っているのかに驚きを覚えたからではない。先の機械音よりも更に機械らしい、無機質で冷たい印象を感じる声に、戸惑ってしまった。


 「あ、ああ。なんだ」

 『ユイレさんというかたをご存じですよね?』

 「知ってる。今回はユイレちゃんのことを聞きたくて電話した」

 『単刀直入に言います。ユイレさんと私は現在、他のSCPオブジェクトによって危機にさらされています』

 「何だって!?」

 『そこで透香様にお願いがあります。ユイレさんをたすけるために』

 「……なんだ」

 『機動部隊に例の小屋への出動要請を出してください。小屋には入れないでしょうが、その後が重要です』


 ねこ


 ユイレちゃんの友達の透香さんに機動部隊の要請を出すようにお願いした。異空間の出入り口の場所が判明したら、透香さんへ折り返し電話してそこに向かってもらう

 もしかしたら私の能力でレストランとあの施設を任意に接続できるようになるかもしれないが、その時はその時だ。


 今は、目の前の化け物を倒さねばならない。

 一応言っておくが、173はなにも破壊不可能じゃない。この世界でも173が量産されている施設があり、そこで壊されていた173が発見されている。

 173がどう破壊されたかはわからないが、173を構成している物質がバラバラの状態で発見されたのを見るに、物理的な破壊が可能なのだろう。

 目の前の173は装備をしているが大したものではない。特別に例を挙げるとすれば防弾チョッキを着ている程度だ。

 目を離さずに攻撃し続ければ勝てるだろう。


 いまだに張り付いている天井から下りて、173の真後ろに着地する。

 避けられる心配はない。10センチいっぱいに爪を出し、チョッキの上、つまりでかい的である後頭部に斬撃をかます。

 それにしても制作者はなぜこんなでかい的を隠さずにチョッキを?

 ……やってしまったかもしれない。いくら頭が回らないとはいえ行動が軽率すぎた。

 直後、体から力が抜けた感覚がした。この感覚は、切腹をした時に感じたものと同じ。つまり、脳からの命令を体が受けることができなくなった時に感じるもの。


 なぜ私はこの施設にいる(・・・・・・・)173が見ていれば動かないと確信したのだろうか。なぜ装備が防弾チョッキだけだと確信したのだろうか。

 頭に装備がなかったのは、頭が固かったからだろう。防弾チョッキをしていたのは、胴体に弱点があったからだろう。

 そもそもの話、この173は戦闘用に改造されている。攻撃を受ければ反撃すると言う機能が備わっていたとしてもおかしくはない。そして、攻撃の手段が首を絞める事だけではないということも。例えば手の先が尖っており、それで斬りつけるとか。


 「――――」


 背後に回り込まれ、背に横一文字の斬撃をうけた私は、前方にくず折れた。

 だが、ここで死んでしまってはいけない。死ぬのはDクラスさんたちを地下一階に送り込んでからだ。

 一瞬体の現実度(ヒューム値)を下げ、もう一度、実体を形成しなおす。

 体力を多少消耗するが、これで傷は消える。


 「シィッ!」


 振り向きざまに斬撃。それと同時、体を丸めながらその場で跳ぶ。

 よし。

 奴に一撃をいれることに成功し、攻撃も避けられた。

 あとはどう彼らを地下一階に誘導するか。

 173が彼らに襲い掛からないとも限らない。


 『嬢ちゃん、エレベーターについたが、地下一階に行ってもいいかい?』


 ――どうやら、私の杞憂きゆうだったらしい。幾度も危機を乗り越えている頼もしい彼らは、壁をつたってエレベーターに乗ることに成功したようだ。


 「ええ、お願いします」


 あとは目の前の化け物を壊せば、サポートにまわれる。

 二度も斬撃をまともに喰らったにもかかわらず、それ(・・)はまだ壊れそうもなかった。

 目を離せば襲ってくるし、攻撃を当てても襲ってくる。

 私が体を保っていられる時間は大目に見積もってもあと三分。傷を受けるリスクも考えると、長期戦はまずい。

 ねこの極限まで研ぎ澄まされた瞬発力と、173の瞬間移動とまで錯覚する超高速移動。

 どっちが上か、勝負。


 縄張り争いをしているライオンのごとく、私と173は対面している。

 ただしライオンのような構えではない。私は悠長に立ち、173は変わらずの前ならえ。

 決して相見あいまみえることのないはずだった173と040‐JP。

 ヒトのような意思などないはずの私と173の間にも、張り詰めたような空気は存在した。

 私が攻撃をすれば、それが刀を抜く合図だ。


 「ふっ」


 ただの吐息。と同時に繰り出される鞭のようにしならせた腕から放たれる上段からの斬撃。

 腕を振り終わった瞬間、眼下に尖ったものが見えた。

 173に胸を貫かれたのだと、瞬時に悟った。

 奴の傷の程度はわからない。だが、手ごたえはあった。

 でも参ったな。どちらにせよ、これ以上は実体を保っていられない。

 手先が小刻みに震え始める。足の力が抜ける。視界がかすれる。


 「あ、か、あぁ」


 肺の空気が押し出される。同時に真っ赤な血も出る。

 まだ、肉の体を保ち続けろ。173は生命の気配を感じ取ることができる。私が死んだことを173が悟ったなら、すぐにでもDクラスさん達に襲い掛かるだろう。無許可で地下一階に侵入した者を殺害する機能も重ね備えているかもしれない。

 これ以上戦えないのなら、少しでも時間を稼げ。

 ああ、だめ。これ以じょうは。からだを保てないだけではなく、脳もだめになる。ゆいれちゃんのいるれすとらんだけは――


 Dクラス


 「どうした兄ちゃん」

 「……嫌な予感がする。おい、ねこちゃん」


 ……返事なし。まさか、やられた?いや、やられたとしても通信までは途絶えないはず。もっとまずい事態になっているという事か?


 「急ごう、D-14134」

 「ああ」


 彼もまずい状況になっていることを察したらしい。

 本来は地下一階にあるパソコンにパスワードをいれて鍵のロックを外すのだが、パスワードを知っているねこちゃんと連絡がつかないため、バールで物理的に扉のロック部分を殴る。 


 「固いな……。なあ兄ちゃん、もしこの一件が終わって自由になったなら、何をしたい?」

 「そうだな……でも俺は自由になれるのはお前だけだと思うぜ。俺は多分また財団に戻るだろう」

 「なぜ?」

 「お前の事は実は出会う前から噂で聞いた事がある。勲章をもらったDクラスだってな」


 そう言うとD—14134は手を止め、疑問に満ちた目で俺の顔を見た。


 「……俺が、勲章者、だと?」

 「その話はあとにしよう。俺が財団に戻るとしても、最後にお前と話すくらいの時間は貰えるだろうさ」


 適当に茶を濁すとD—14134は満足ならないという顔をしたが、状況を理解してまた作業を再開してくれた。


 ギキイイイイィィィィンン


 「「!?」」


 耳をつんざくような音に、二人ともバールを取り落としてしまった。


 「ぐあ、あああっ、なんだこりゃあ!?」

 「耳をふさいでもうるせえっ!」


 例えるのならば、金属同士ををものすごい速さでこすり合わせた音をさらに10倍以上にうるさくしたような音。

 頭がおかしくなってしまいそうだ。

 ねこちゃんと戦っていたやつの仕業なのか?この音は攻撃を仕掛けてくる予兆か?それとも――


 「!?」


 一瞬、何かが見えた。また見えた。……ねこちゃんと戦っていた化け物か?それにしてもなんて速さだ。この高速移動のせいで音が鳴っているのか?もし当たったら一瞬でぐちゃぐちゃになってしまいそうだ。

 というか、エレベーターでしか来れないはずなのに……天井に穴開けて来やがったのか!

 だがやつは襲ってこない。多分ねこちゃんの何らかの攻撃の影響だろう。だがそうだとしても激突してしまう可能性はある。早くロックを壊さねば。


 「兄ちゃん!おい!鍵空いたぞ!」

 「!!」


 何を言っているかはわからなかったが、D‐14134は銃を右手に持っていた。とっておいた最後の弾丸でロックをぶち壊したらしい。その代わり、右の耳からは血が垂れていた。

 体当たりでドアを開けると、コンクリートでできたトンネルが目に入った。見えないところまでまっすぐのびている。

 高速の化け物が出てこないようにドアを閉め、互いに何も言わずに地面を蹴る。

 しばらく走ると化け物の騒音が会話可能なレベルまで小さくなったので俺はD‐14134に話しかけた。


 「おい、耳は大丈夫か?」

 「耳がいかれるのは初めてじゃねえよ。それよりも俺はさっきお前が言ったことについて詳しく知りたい」

 「……俺が知ってるのは勲章をもらったやつが扉を閉めていたこと。そして俺と同じクソッタレだっていう事だ」

 「それだけの要素でなぜ俺を勲章者だと?」


 予想していた質問。だが俺は特に答えを持ち合わせていない。強いて言うのならば初めて会った時の「扉を閉めるのは得意だ」的な発言から。


 「……詳しくは財団に聞けよ。俺はただお前が勲章をもらうに値する人間だと思っただけだ」


 そうとだけ言うと、D‐14134は小さく息を吐いた。そして、にっと口角をあげ、言った。


 「そうかい。そりゃあ、兄ちゃんもだろ」

 「え?」


 笑顔のD‐14134から発されたその言葉に一瞬困惑し、その後意味を理解した。


 「俺みたいなクソ野郎すら勲章者なら、兄ちゃんも勲章者だろ」

 「――」


 言葉がつまってしまった。そして自分の速くなっている心臓の鼓動が、さらに高まるのを感じた。D‐14134に「どうして」と問いかけそうになったが、すぐにやめた。彼の言葉には純粋な、言ったとおりの意味しかないと感じたから。


 「お。兄ちゃん。あれをみろ。SF映画なら出口って呼ばれる類のものじゃねえか?」

 「……ああ」


 その優しい笑顔を見て、俺はかつての妹を思い出した。


 財団


 事案-213-1-A

 20■■年■月■日■■県■■市にて「ジャンプスーツを着たバールと拳銃を持った二名の男がいる」と警察へ通報があり、警察内部のエージェントによって二名のDクラス職員が確保されました。調査によると、確保されたDクラス職員は、SCP‐■■■■の調査に投入され、死亡したと思われたD‐■■■■■、SCP‐■■■‐JPに同じくして投入され安否が不明だったD‐■■■■、それぞれ本人だと判明しました。この二名にはインタビューを行った後、O5評議会の意見がまとまり次第適切な対応がなされます。


 インタビューより、SCP-213-JP-1は複数存在するとされ、それぞれに外界との出入口が存在するという事が明らかになりました。


 事案‐213‐2-B

 エージェント■■■によりSCP-213-JP-1の出入り口に機動部隊が派遣され、SCP-213-JP-1は無力化されました。後に行われたインタビューにて、エージェント■■■と二名のDクラス職員はそれぞれ今回関与したSCP-■■■-JPと通信を取り、即座に出入り口の場所を特定し、機動部隊を派遣したようです。

エピローグ的なのに続きます。

以下が今回使用させていただいたSCP達です。

http://scp-jp.wikidot.com/scp-213-jp


http://scp-jp.wikidot.com/scp-1983


http://scp-jp.wikidot.com/silver-bullet


http://scp-jp.wikidot.com/scp-5000


http://scp-jp.wikidot.com/scp-3220


http://scp-jp.wikidot.com/scp-3693


http://scp-jp.wikidot.com/scp-173


ねこはいました。

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