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銀の弾と赤い血液より、銀の食器と赤いトマトスープを ①

 とりあえず読んで下さりありがとうございます。

 今回はちょっと長めなのが2話続きますので気長に見てもらえば幸いです。

 あと、今回はねこちゃんが沢山動いてかっこいいです。

 およそ正気とは言い難い所業。

 監獄から逃げ出すだけではなく、その他の囚人を全て脱獄させようと彼らは言った。

 希望の銀の弾丸として、彼らは打ち出された。

 でも、弾丸にも手入れは必要だろう?飛び続けるためには、万全な状態で発射されねば目的を果たす距離まで飛ぶ事はできない。

 それが人間なら、なおさらだ。


 女も男も大人も子供も。どんな畜生だって手入れは必要だ。

 体だけでなく、心もキレイに保たねば、銀の弾丸と言う希望ならなおさら飛び続けることはできない。

 心をキレイに保つ方法とは?

 簡単だ。長年彼らが忘れていた良き習慣を思い出させてあげればいい。

 彼らが使い捨てのただのDクラスだった頃ですら、行う事を許されていた人間として当たり前の行為。


 それは食事。


 今日もSCPレストランは、そのレストランという場を通じて心のケガレを優しく洗い落とす。




 「……」


 私は食器を洗う手を止めた。


 「どうしたの?ねこちゃん」

 ユイレちゃんはお手伝いとして、食器を拭いてくれている。

 「……なんでも、ありません」


 何か、違和感を感じた。今までに感じたことの無いものだ。

 いいものではない。

 今までに訪れた凶悪なSCPオブジェクトのお客様がご来店した時も、こんな感覚はなかった。


 「ユイレさん、ちょっと、やっててくれますか?」

 「いいけど……何をしにいくの?」

 「大事なことです」


 レストランの出口へ向かう。

 この違和感の正体……これは、気配に近い。

 見られている?……違う。

 扉に手を掛けたところで、違和感の正体に気づく。

 ……これは。


 「ユイレさん、そこから絶対に、絶対に動かないでください」

 「えっ……うん、分かった」


 これは、取り込まれている。この井戸小屋、このレストランごと、何かに取り込まれている。

 何に取り込まれている?分からない。

 分かりたくもない。

 何か、恐怖を具現化した化け物に睨まれているような感覚。


 「まずい、ですね」

 「ねこちゃん、これ、なに、気配? こわい」


 ユイレちゃんが震えた声で言う。

 外に出るか?

 いや、だめだ。

 私はこの体が消えても、お客様の脳に私がある限り私は復活する。

 でもユイレちゃんはそうも行かない。


 「チッ……。ユイレさん、こちらを見てください」

 「え、うん」


 ユイレちゃんの脳に、私を送り込む。


 「う……何、コレ」

 「ユイレさんを私のキャリアにしました。私は一度外に出ます。ユイレさんに何かあった時は呼んでください。すぐに駆けつけます」

 「わ、わかった」


 よもやこんな形でユイレちゃんの脳内に入り込む事になろうとは。

 ドアを開ける。


 「……嘘でしょう」


 ドアを開けると、そこは監獄の一室だった。私は横になった棺から出てきていた。

 ドラ○もんの鏡の世界を作るお風呂の様に、重力の向きの違いが発生していた。


 「これはまさか……先日ユイレちゃんに紹介したSCP……。ハッ」


 足音がしたので、とっさに自分の姿を小猫に変えて、物陰に隠れる。

 見えたのは、触手の生えた化け物だった。

 やはり先日ユイレちゃんに紹介したSCPで間違いないようだ。

 そうすると……しくったな。どうレストランに戻るか。

 私はこの体が消えても、先程言ったようにキャリアが生きている限り井戸、つまりレストランで復活するが……消えるには外的要因が必要。


 「……聞こえますか、ユイレさん」

 『え?ねこちゃん?どうやって話しかけてきてるの?』

 「そう言う能力です。ユイレさん、台所の包丁を扉の外に放り投げてくれませんか?」

 『えっ、うん、分かった」


 私がしようとしているのは、もちろんハラキリ。

 とは言っても痛みがともなう訳でも無く、人間の体を維持できなくなるから消える、という感じ。


 『何をするの?』

 「いいから必要なんです。今は緊急事態です。早くしてください」

 『う、うん。今投げたよ』


 棺を開けると、料理に使う包丁が入っていた。

 『まさかとは思うけど……ねこちゃん、自分を切るだなんて、言わない、よね』

…………。

 「切っても痛みがともなうものではありませんので、安心してください」

 『やっぱり切ろうとしてるんじゃん』

 「緊急事態です。言ってる場合ではありません」


 人間の姿に戻って、バレないように棺の中に入り、腹を刺す。


 「うわっ!ねこちゃん!?」

 「ふう……ユイレさん、まずいことになりました」


 私はユイレちゃんに今起こっている事をかいつまんで説明した。


 「という事でユイレさん、私は準備をして、もう一度監獄に行きます」

 「ど、どうするの?」

 「強硬手段です。監獄にいる人たち全てを私のキャリアにします。私の本当の異常性、知ってますよね?」

 「う、うん」

 「そして監獄の情報を入手し、扉の出口を元に戻す方法を考える。あわよくば監獄を、アノマリーの異常性を消します」

 「ざ、財団に電話をしてなんとか、で、できないの?」


 ユイレちゃんの顔は恐怖で蒼白になっていた。

 そんなユイレさんをなだめるように、頭をなでながら言う。


 「大丈夫です。私がなんとかします。なんてったって、私はKeterオブジェクト。あの財団が収容を困難とするSCPオブジェクトです」


 ユイレちゃんは少し驚いたような顔をしながら、私の顔を見つめている。

 なでなでなんて初めてだから当たり前の反応だ。

 それでも、ユイレちゃんは意を決したような表情をして、


 「ねこちゃん、頑張ってね」

 そう、言ってくれた。

 「ありがとうございます」


 その後、私は斜めがけバックにちおびたを3本と「ねこ」を描いた絵を複数枚入れた。


 「それでは、行ってきます。何かあったらいつでも呼んでください」

 「うん……行ってらっしゃい」


 扉に手を掛け、棺に入る。

 さあ、ここからは戦争だ。

 まずは先程棺にのこしていった包丁を回収し、それをバックにいれ、体を小猫に変える。

 ちょっと荷物が重いが、それで鉄格子をくぐり抜ける。

 再び体を「総支配人ねこ」に戻す。

 向かいの部屋の人が顔を驚愕の色に染めながらこちらを見ていた。


 「ねこです」


 その人と目を合わせ、キャリアにする。

 その周りの部屋の人も同様に、脳に入り込む。

 移動しながら手当たりしだい脳の中を探り、有益な情報を探す。もちろんキャリアも増やしながら。


 「っ……」


 曲がり角に化け物の気配がする。

 ……丁度いい。化け物をキャリアにできるか試すいい機会だ。


 「ねこはいます」


 化物と目を合わせ、キャリアにできるか試みる。

 ……結果は、成功だった。

 瞬間、化け物の記憶が流れ込んでくる。


 「ッ……!」


 あー……なるほど。いつものパターンですね。化け物がいらついて人間を殺す時点で薄々勘づいてはいましたが……。

 元、人間の方でしたか。

 だから私のキャリアにできた……。

 ……でもだめですね。思考回路がめちゃくちゃにいじられているせいで、この監獄の警備兵になってからの情報がマトモに入ってきませんね。


 「おおお゛オオオ゛おおぉ゛オ!!!!!!」

 「なっ……」


 化け物のストレートパンチをすんでのところで交わす。

 ねこじゃなかったら死んでましたね。

 ……でもキャリアにしたはずなのに、操るどころか行動を制限する事すらできない。

 その操ろうとする信号を送ることは、化け物にとっては苦痛にしかならないらしい。


 「ふうむ……どうしたものでしょうか。どうしたら、あなたは倒れるのですか?」


 化け物が、もう一度右ストレートを放つ。

 バックから包丁を取り出し、何も持ってない方の左手で拳の軌道をずらす。

 そのまま地を蹴り、化け物の心臓であろう場所に包丁を突き立てる。

 ……が、包丁は刺さる事はなかった。

 なんと言えばいいのだろうか、包丁がぐぐぐ、と布団に拳をのめり込ませたようになっていた。

 そのスキに化け物は左手で私の頭をつかもうとする。

 

 「ねこの瞬発力、なめないでください」


 包丁から手をはなし、いつもつけている黒い手袋越しに爪を出す。

 「シッ……!」

 右腕を振り上げ、化け物の腕に斬撃を入れた。


 私の爪は最大長さ10センチメートルにまで伸ばせるが、もし戦闘になったときは基本5センチメートルまで、と決めている。

 強度の問題ではなく、10センチメートルまで伸ばすと、爪が遠心力などで加速して一撃必殺になるから。あと長すぎてびよんびよんする。

 それがスキを作る事にもなるので、通常戦闘時には5センチメートルまでしか伸ばさない。

 が、今回は最長の10センチメートル爪でぶった切った。


 「……まだ腕がくっついてるのは、少しショックですね」

 「アアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」


 化け物の腕は切断には至らなかったものの、傷ができ、そこから血が流れていた。

 『おい!何だ今の声は!例の脱獄者の仕業か!?』

 ここの管理者であろうの人間の声が聞こえて来た。

 包丁を回収し、ダクトに飛び込む。


 「例の脱獄者……Dクラス職員さん、ですか」


 レストランの扉の出口となった棺の部屋の周りに空き部屋はほとんど無かった。

 ここはまだそのDクラス職員さんの目が行き届いていないフロアと言う事か、または新しく入ってきたのか。

 キャリアにした囚人の皆さんの頭の中にもDクラス職員さんについての情報は無かった。

 とりあえず、ここの管理者の人間をキャリアにしておきたい。そのキャリアとなった人間を中心としてまたキャリアが増えるだろうし、それで情報は十分に手に入れられるだろう。


 ダクトの中を移動し、手頃な場所にねこの絵を描いた紙を通気口から落とす。

 これで私のキャリアが増えてくれればいいのだが。

 次は、例のDクラス職員さんを探したい。

 この監獄の情報を少なからず得られるだろうし、自殺せずともレストランに戻れる鍵を彼らは持っている。

 私が頑張れば鍵は取れるだろうが、私は白いねこだ。囚人になりすますこともできないし、目立つことこの上ない。鍵を取ろうとするものならば、また戦闘になりかねないだろう。


 「はあ……とんでもない事に巻き込まれてしまいましたね……」


 ちおびたを一本消費した後、ため息にも近いそんな言葉が口から出た。

 まあ、とんでもない事に巻き込まれているのは、ここの囚人になった人間全て、同じだろうけど。

 ……脳に新しい情報が流れ込んできた。どうやら、新しいキャリアができたらしい。

 アタリだった。ここの管理者の人間がキャリアになった。

 ……キャリアになった人間から大した情報は引き出せなかった。その人は何を目的かも分からずただ仕事をしているだけの様だ。

 その代わり多くの報酬を貰っているらしい。


 「移動、しますか」


 私がほっといてもキャリアは自然に増える。

 今はDクラス職員さんを探そう。


 それにしても……。このダクトは狭い。しっぽがダクトの天井にあたって気持ちが悪い。(「ねこ」は四つん這いになるとしっぽを寝てるライオンみたいに動かすクセがあるよ!)


 管理者から引き出した情報によれば、Dクラス職員さんによる被害が起こったであろう場所は私がいる階層よりも下の様だ。


 私が階層を一つ下がる頃には、管理者のキャリアは更に増え、Dクラス職員さんがいるであろう場所も絞れた。

 だが、この監獄の主がやろうとしている事については一切の情報が得られなかった。

 ちおびたをもう一本消費した後、空いている部屋に降りて廊下に出た。


 「……ここらへんにいるはずなのですが」


 Dクラス職員さんたちの移動パターンを見ると、基本的には5つの連続した階層を行き来しているのがわかる。

 これは彼らがダクトを使って移動しているからであり、この5つの階層より上か下へ行くにはエレベーターのような装置を使う必要がある。

 これを通るにはもちろんそれなりのセキュリティを抜けなければならないため、彼らの移動パターンは必然的に絞られる。

 私が出た部屋が彼らと同じ階層で良かった。


 「……」


 上から気配がする。

 恐らくダクトの中から。

 Dクラス職員さんだったらいいのだが……もし違うなにかだったら、こんな狭い所では、私は殺されてレストランに戻ってしまうだろう。

 一か八か、もう一度部屋からダクトに入る。

 二人分の人間の気配。Dクラス職員さんに間違いない、はず……。


 「にゃ〜お……」


 猫の声真似(ねこは猫では無いので真似です)で様子を見てみる。

 ……わずかに金属音がした。現在地から数メートルの場所。

 下手をするとダクトの道を曲がれば遭遇する。


 「誰かいるのか」


 声がした。男だ。英語。かすれている。疲労困憊、と言ったところだろうか。


 「いますよ」

 「クソッタレ……! 逃げるぞ!」


 私を管理者と思ったのだろう。だが、ここで逃がす私ではない。

 「ねこはいます」

 彼らをキャリアにする。頭に流れ込んできた情報から、Dクラス職員さんは彼らだと分かった。

 ついでに彼らの体に「ストップ」と命令をかける。


 「な……え……?何を……」

 「おい……これは……」

 「私のキャリアになって操られてもなお自我が保てるのは、さすがの精神力ですね。大丈夫です。私はSCPアノマリーですが、あなた達の味方です」


 「「ねこ……?」」

 私を見ると、彼らは二人揃って同じリアクションをした。

 無理もないだろうけど。

 彼らはボロボロだった。Dクラス職員用のジャンプスーツはあちこちが裂け、顔に無数の傷がついている。

 何より、もう何日も食事をしていないと見て分かるほどにやつれていた。睡眠もマトモにとっていないようで、目の下には濃い隈ができていた。


 「あなた達が、Dクラス職員さん達ですね。随分とやつれているようですが」

 「なんだ、ね、ねこ、ちゃん、とでも呼べばいいのかい?」

 「おい、兄ちゃん。警戒を解くには早くないか?」


 アジア人の顔をしている方は既に呂律が回っていない。寝ていないからだろう。

 北アメリカ大陸に住んでいそうな人の方は、銃を構えてこちらを警戒している。


 ……私は一つ、彼らに提案をした。


 「……本当、だろうな」

 アジア顔の人が問う。

 「こんな状況で嘘をつく必要性があるのなら、ぜひ教えてほしいです」

 「乗ってみる価値はあると思うぜ、兄ちゃん」


今回使用したscp及びtaleです。

http://scp-jp.wikidot.com/scp-213-jp

http://scp-jp.wikidot.com/scp-1983

http://scp-jp.wikidot.com/silver-bullet

最後まで読んで下さりありがとうございます。

こんかいもねこはいました。

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