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番外編 ねことみんなのバレンタインデーのおくりもの

 2月14日

 この日、世界で愛が試される。

 日の丸を掲げる国日本では、海外の多くの国とは違い、女性が男性への好意を込めた贈り物をする。

 愛ある者にとって、それは楽しい一日。そうでないものにとっても、その者たちの間で本音を言い合える奇抜な一日となるだろう。

 それは、世界の超常を食い止める組織、SCP財団-日本支部においても例外ではない。

 いかなる日本人であれ、この日は意識せずにはいられない。

 海外からやってきた文化を捻じ曲げ、女性→男性への構図を作り出したこの国のバレンタインデーは、多くの感情が入り混じる、クレイジーなイベントとなるだろう。

 チョコレートが食べられないはずのねこも、この日を意識せずにはいられなかった。

 ねこはレストランをいつものように経営しながら、いつものように来るだろう栗色の髪の毛の少女に対して、思いを馳せていた。


 「私も貰えるのでしょうか」


 ×


 「えっ、チョミさん、これって……」


 頬を赤らめながら、手作り感満載の包装をされたチョコレートを受け取り、エージェント桜木がたじろいだ。


 「ハッピーバレンタイン。なんつって」


 からかうように、先輩であるエージェント千代巳が言った。


 「いや、まさかチョミさんから貰えるとは……」

 「なんだ? オバハンから貰ってもうれしくないのか?」

 「いや、そんなことないっす!」


 またもやからかうように言う千代巳に対して、桜木はただ純粋に嬉しそうに答えた。

 それを見て、千代巳も内心嬉しくなった。


 「フフ、ホワイトデー楽しみにしてるぞ。手作りだからな、これ」

 「はい! ありがとうございます! 絶対作ります!」


 桜木の頬を赤らめた感情は、いつの間にか純粋な喜びへと昇華したようだった。

 そんな彼を見ながら、先輩エージェントは頬杖を突き、一瞬だけ脳裏に浮かんだ想像をかき消した。


 「義理だとか本命だとか、関係ねえよなあ……」


 桜木が去ったオフィスで、千代巳はまだ頬杖をついていた。


 「ま、生きてるうちは毎年くれてやるか」


 千代巳は伸びをして、机の上に積みあがった書類にちらりと目をやった。

 それに手を付ける前に、机の横の小型冷蔵庫から牛乳パックを取り出した。

 牛乳を飲んで脳を活性化させながら仕事をしようと思ったらしい。


 「あいつ、他の奴からも貰ってんのかね」


 誰に聞かせるでもない独り言をつぶやく。

 牛乳パックを零れない程度に揺らしながら、ボールペンを持った。


 「いつ死ぬか分からんのだから、好きな女ぐらい早く作ればいいのに」


 いつまでもこころは乙女なのか、バレンタインデーと言うだけでいやでも意識してしまうようである。

 仕事の邪魔をしてくる思考をかき消しながらも、千代巳はなんとかボールペンを紙に立てた。


 「あっ……」


 その瞬間、千代巳は自分の左手が牛乳パックを取り落としたのを感じた。


 「いっけね……」


 急いでパックを拾って、いざという時のために冷蔵庫の上に置いてある雑巾を手にした。


 「はあ……まったく、この日ってだけで、こんなに考えちまうもんなのか」


 これは仕事進まなさそうだぞ……と呟きながら、彼女は零した牛乳を拭き始めた。


 ×


 厚手のコートを羽織った、栗色の髪を持つ華奢な女の子が、どこかのオフィスビルの廊下を行き来していた。

 首から下げている社員証には、『研究員 ユイレ』と書かれている。名前の横に写っている彼女の顔は、真面目な表情をしていた。

 しかし、当の彼女は、緊張した面持ちで廊下の同じ場所を何度も回っている。

 この特別な日にのために、彼女も自分の愛のこもった贈り物を用意したのだが、どうやらその相手を待っている様である。

 時折彼女は両頬に手を当てて首を振り、自らの心境を表していたが、それを見ている者はどこにもいなかった。

 彼女とそのお相手は、この時間帯ではほとんど人の来ない場所を待ち合わせに選んだようだ。

 もしここに彼女の友達でもいれば、今の心境を打ち明けて共有できたかもしれないが、それができない為に、彼女の思いは積み重なる一方であった。

 しかし、彼女にとって永久とも思える待機時間は、実際は10分程度であった。

 彼女が見つめていた廊下の角から、ユイレの思い人は来た。

 彼を視認した瞬間、ユイレの表情は喜びに満ちたものになった。


 「やっと来た……!」

 「ごめん、待った?」

 「ううん、全然」


 ユイレは鞄に手を入れて、用意していた思い人へのプレゼントを取り出した。

 正方形の箱に、リボンを巻いたものだった。中に何が入っているかはお楽しみだが、日本人ならば何が入っているかは想像に容易いだろう。


 「これ……バレンタインの、その……プレゼントです」


 恥ずかしそうに視線を逸らしながら、ユイレは自分の愛の籠った贈り物を差し出した。

 送られた彼は、驚いたように目を丸くして、おずおずと手を出し、受け取った。


 「俺……に?」


 信じられないという表情で、ユイレの思い人はその言葉を言った。

 そして、自分の心の奥底から少しずつ、実感と、何か熱いものがこみあげてくるのを感じた。


 「は、ハッピー、バレンタイン……」


 尚も目を逸らしながら、ユイレが言った。


 「マジ……か……」


 そして彼も、頬を赤に染めた。


 「ありがとう」


 男がそのセリフを言った後の数秒間、その場には沈黙が流れた。


 「いいえ……そんな、えっと……」


 ユイレが、やっとのことで言葉を絞り出した。

 二人とも、まるで付き合いたてのように初々しい表情をしていた。

 しかし、しっかりと、二人の口角は上がっていた。


 確かな愛と幸せが、二人の間にあった。


 ×


 「……来ないですね」


 時刻は午後7時。そろそろお店を閉めたいお時間である。

 それもしょうがないか、とねこは考えた。

 バレンタインデーと言う特別な日に、恋人とお友達どっちを取るかと言われたら、恋人を選ぶであろう。うん、もしねこが人間だったら、きっとそうだ。

 と、ねこは自分に言い聞かせた。


 「……チョコレ―ト、一応作っておいたのですが……」


 紙の包装紙に、チョコレートが8個入っている。それをねこは右手に持っていた。

 包装紙は茶色のもので、真ん中の所は透明のプラスチックになっており、中が見えるようになっていた。

 プラスチックの上には『NEKO'S SCP RESTAURANT』と書かれており、全体的にどことなく高級感を感じさせる。

 ちょっと気合を入れて作ったこのプレゼントが渡せなくなるのは、悲しいものである。

 それにこのチョコレートは、バレンタインデーに渡すからこそ価値がある。

 後日ではいけない。それではただの贈り物になってしまう。

 『もしかしたら、好意があるかもしれない』

 それを貰い手ユイレちゃんに意識させるには、今日この日、バレンタインデーに渡すしかないのである。

 かくなる上は、ユイレちゃんの家に忍び込んで、枕元においてあげるか……。

 なんてことを考え始めたとき、ねこは待ち焦がれていた気配がすぐ近くに来たことを感じた。


 「ユイレちゃ――――」


 その時、ねこは後に自分で振り返ってもおかしいと思うような行動をした。

 ねこはユイレの名前を呼び終わる前に、自らレストランの外へ飛び出してしまったのである。

 出入口のドアをすり抜けて、ねこの体は質量を帯び、小屋(レストランの前にいた女の子と衝突した。


 「あっ……」


 気づいた時には、もう遅かった。

 いくらねこが華奢だったとしても、いきなり飛び出してきたのだから、それとぶつかった者が急に踏ん張るのは難しい。

 ねこは、自分が待ち焦がれた相手を押し倒してしまう形となった。


 「ねこ、ちゃん……?」


 顔を真っ赤に染めた、かわいらしい小動物が、ねこの瞳に映った。


 「ユイレ、ちゃん」


 ちゃん呼びしてしまった事すら気づかないほど、ねこの頭は混乱していた。混乱しすぎて思考が停止していた。


 「えっと、あの、これは、その、あああああ……ごめんなさい」


 とりあえず、ねこは素直に謝ることにした。


 「えっと、その……来ないかと思ってしまいました。それで、少し、気持ちが高揚してしまって……」


 なんとか頭の回転を戻して、ねこは状況を説明した。しかし、目の前を見ることはできなかったようである。押し倒したままの状態だった。

 押し倒されたユイレは、まだ思考を取り戻していなかった。

 口をぱくぱくさせながら、ユイレは目をぐるぐると回した。

 頭からぷしゅーと煙を出して、ユイレは気を失った。


 「あっ……」


 それを見たねこはただどうする事も出来ず、呆然とするしかなかった。

 



 ねこはユイレをレストラン内に入れ、仮眠室へ寝かせた。

 ユイレはなかなか目を覚まさなかった。

 『もしかしたらチョコを渡せないかもしれない』と言う思考がねこに浮かんだ。

 それはどうにかしたい。せめて、チョコを用意したことだけでも、伝えねば――

 そう思い、ねこはユイレの頭の中に入り込んだ。

 この行為も、ねこが後に振り替えっておかしいと思う行動だった。

 そしてユイレの頭の中で、こう言った。


 『ハッピーバレンタインです。ユイレさん。チョコレートもあります。枕元に置いておきますので、是非食べてください』


 これで事実上チョコを渡したものだろう、とねこは勝手に納得した。


 「……うん。ありがとう……ねこ、ちゃん」


 ユイレが、寝言を言った。

 ねこはそれを聞いて、少し頬を赤らめた。

 なぜならば、ユイレは夢を見ていたからである。

 ねことユイレでチョコレートを互いに渡す、何とも嬉しい夢を。


 ねことユイレは、思い合っている。

 形がどうであれ、バレンタインデーと言うイベントを通して、それが証明された。

 ユイレが起きれば、改めて互いに気持ちを伝えあう事だろう。

 言葉にはしないかもしれない。

 しかし、二人が互いに渡すチョコレートには、必ず思いが乗っているはずだ。


 ねこにとっても、ユイレにとっても、この日は最高のバレンタインデーになった事だろう。

なんとか間に合いました……


元ネタ ねこのSCPレストラン のYou Tubeチャンネル

https://youtube.com/channel/UCsUE9GXFRsb1ISA2PE0q96A


元ネタの元ネタ ねこですよろしくおねがいします

作者: Ikr_4185

作品名: SCP-040-JP - ねこですよろしくおねがいします

リンク: http://scp-jp.wikidot.com/scp-040-j

CC BY-SA 3.0


この作品はCC BY-SA 3.0に準拠しています。

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