SCPと財団の重大任務⑧
瞬きの瞬間に、ねこの傷が治る。ねこにとって少しの傷など、ちょっとした現実性のコントールでどうにでもなるものなのである。
「まずは表に出ましょうか、ジャック」
「俺にとってはこの世界全てが家だ。表はない」
「なら洞窟から出ましょうか」
いきなりジャックの体が後方に吹き飛んだ。
「!?」
洞窟から飛び出て背から着地したジャック。
彼は、顔に大きなダメージがある事に気が付いた。
彼の目の前に、ねこが来る。
「表に出たので、立ってもらって構わないですよ。思う存分、暴れてもらって大丈夫です」
「……これ程癪に障った相手は初めてだな」
鼻から出た血を拭い、立ち上がるジャック。
「先ほどのは何をした?」
知覚できなかった攻撃について、ジャックが訊いた。
「顔を殴り飛ばされた感触はなかったのですか?」
「……」
ジャックの右手が動いた。
バキッ、と悲惨な音がして、ねこの側頭部が殴られた。
「ふっ」
反動を利用して、ねこもまたジャックの側頭部を殴り返した。
「消えろ」
ねこの腹が殴られる。
「ぅっ……はっ」
腹を殴り返す。
ジャックの体が衝撃で下がる。
ねこが追い打ちをかけるように、知覚できない速度でジャックを殴り飛ばした。
ジャックの背が地面を滑る。
「策のない攻撃だとどう見てもお前がジリ貧だが?」
仰向けのままジャックが言った。
そのジャックにねこが拳を動かす。だがその拳は地を殴ると言う結果に終わった。
それを避けたジャックが、顔を前に向けたねこの視線の先にいた。
「俺に策はある」
ジャックは、どこから取り出したのか、操作盤のようなものを持っていた。
「それは……ポータルのスイッチ?」
「そうだよく分かったな。だがそれだけじゃない。この世界には、このスイッチのみで動かせる未使用の機能がある」
ジャックが、その操作盤にあるうちの一つのガラスの蓋を開け、スイッチを押した。すると、空から赤い液体のようなものが、雨のように降ってきた。
「これは……この世界に天候はないはずでは……」
「お前もSCP財団の手先ならば、そう理解していたはずだろうな。事実、この機能を使ったのは開園以来今初めてだ。他にも外の世界と同じように時間と共に空の明るさを変える事もできる」
「……なるほど。それで、何が――」
「しらばっくれるなよ。お前の目的はこれだろ?」
「……」
ねこの表情に変化はなかったが、それは事実である。
本来は千代巳達をそのまま元の世界に戻すのが理想的な作戦だった。が、一応最終防衛ライン的なプランn(14番目のプランと言う意味ではない)として、ポータルが閉じる事は想定してはいた。
それは、無理やり操作盤を奪うと言う作戦。
本当に無理やりだが、ポータルを閉じられたならば、これしか手が無いのも事実。
「そんなに激しく攻撃したら、これが壊れるぞ?」
「……そんなやわなものじゃないでしょう。強度で言えば、ポータルと同じレベルですよね」
「どこまで知ってるんだ? 財団の情報か?」
「そこまでは財団も知らないでしょう。これはねこの独自に推理、入手した情報です。それにねこは財団に収容されている立場で、財団の情報を自由に入手できる立場ではありません」
勘違いしているようなので、言っておきました。と言うねこ。
だが、財団の職員であるかそうでないかは、彼にとってはもう関係ないだろう。そもそもこの世界から獣人と住民を元の世界に連れ出した時点で、ジャックにとっては『悪』なのである。
操作盤を胸ポケットにしまい込み、ジャックは言った。
「……まあ、『ハロウィン』が終わってしまえばポータルのスイッチも関係ない。つまり、俺はこのコントロールパネルを持ってひたすら逃げれば、今日中に俺の勝ちが確定するわけだ。ハロウィンが終わってから、ゆっくりお前と仲間たちを仕留めればいい」
「……お仲間さんはどうするんです? 見捨てるつもりですか?」
「ああ、別にお前たちをハロウィンが終わる前に消せばいい話だろう。逃げると誰が言った」
結局、ノープランじゃないか、とねこはそう思った。
だが、その小細工なしのノープランの殴り合いがねこにとっては一番厳しい。
ただでさえ、相手は自分のアドバンテージとなるはずのミーム汚染ができない。ねこも大分人間離れした体であるが、ジャックに対してはどうしても劣る。
ジャックも、それを恐らくは理解している。
ノープランこそが、ねこに対しての最善策。
「……ねこが勝てばいいだけの話ですね」
「他の生物を操るくせにそういう思考はまともにできないのか?」
「……想定外の事も頭に入れた方がいいですよ。絶対と言う言葉は絶対に存在しないので」
少しの言い合いの後、黙る両者。
残るは、ぶつかり合う視線と、張り詰めた空気。
紅い雨が降る中、対峙するねこと獅子。
それはまさに異常風景。SCPと呼ぶにふさわしい出来事。
動いたのは、獅子。
それに対し、ねこ、動かず。
顔面にまともにダメージを喰らう。
が、そのはずなのに、ねこは殴られた顔以外をぴくりとも動かさなかった。
「?」
疑問を感じたジャック。
そのスキに、顎に蹴り上げが入った。
「~~ッッ!!」
流石にまともにダメージが入ったようである。顎を押さえ、喉の奥から苦悶の声を発していた。
お返しとばかりに放つ右ストレート。しかし、ねこの長い脚で内肘関節を蹴られ、止められる。
その右脚を、ジャックは掴んだ。
「変態ですよ」
「知るか」
渾身の力で、膝関節を曲がってはいけない方向に曲げる。
「っ……」
ミシミシミキメキと、出てはいけない気色悪い音が脚から出る。
「ぐっ……ああっ!」
ジャキンと爪を出し、ジャックの顔を斬りつける。
一瞬力が緩み、脚を引く。
「ふう、ふっ、はあ」
疲れか恐れか、呼吸を乱すねこ。
完全に折られるのは防げたものの、恐らくこの戦いにおいて使い物にはならない。
そして脚を直すだけの暇はない。
すぐにでも、獅子の牙が襲い掛かってくるのだ。
ガシッと今度は腕を掴まれた。
また折られてしまうと思い、無意識に腕に力を込めるねこ。
「軽いもんだな」
「な――」
体を襲う浮遊感。ジャックの剛腕によりねこはかるく投げ飛ばされてしまった。
かなり飛んだ。目算十数メートル程地から離れている。
何とか片足で着地しようと姿勢を整えようとした時、投げ飛ばされた速度と大して変わらない速度で追いかけてくるジャックが見えた。
着地した瞬間、腹を殴られる。
「ッ――」
ガードが間に合わない。奥歯を食いしばり、その攻撃を受ける。
片足では踏ん張り切れず、少し地面を滑った後、腹に来た二発目の攻撃でまた宙を舞った。
この二発目はなんとか腕で受けられたが、体が飛ぶほどの威力なのだから、逆に腕が壊れそうである。
「かはっ……」
「弱いもんだ」
ねこが膝をつく直前に、胸ぐらを掴まれた。そして高く持ち上げられる。
「やはり、小動物は楯突くべきじゃないと、分かったか?」
「っ……この……」
腕を掴んでも、爪を立てても、その腕は動かない。
胸ぐらから手が離れ、喉を掴む。
「がっ……!」
「胸ぐらから手を離してほしかったんだろ? ほら、離したぞ?」
「っ……ぐ……お……あ……」
喉から出るのは、絞り出したようなか細い声。その顔は勿論、苦痛の表情。
「苦しいだろうな。だが、お前が最初から俺たちに、この世界に手を出さなければこんな事にはならなかっただろうな」
「は……っかっ……そ、んな……」
「ん? まだ何か言うか?」
精一杯の声で、ねこが声を発する。
「そん、な……大事な、ひとのっ、想いびと、をっ……かっ……みすて、られな……」
「ふん、そんな家族でもない、赤の他人のためか。俺の方がよっぽど、動機としてはマトモだな。ま、それももういい」
ぐっ、とジャックが手に力を入れる。
「っ、うぅうッ!」
悲痛な、弱い叫び声が上がる。
ねこの手にも力が入る。伸ばした爪がジャックの肉に刺さり、血が流れている。
だが、ジャックの手が緩むことはなかった。
「さらばだ」
「ッ!!」
ゴキン
悲惨な、音とも言えない音。それとほぼ同時にねこの体がビクンッとはねるように痙攣し、その抵抗していた爪と腕から力が抜けた。
ジャックは、その手を首から離した。
力の抜けたねこが、膝から地に落ちる。その目は、焦点が合っていない。呆然と虚空を眺めるのみである。
「……」
ジャックはそれを見て、暫く黙ったまま、その場に立っていた。
そして右腕を振り上げた。
「小動物は死んだふりが得意な種もいると、聞いたことがあるからな」
ジャックは、ただ、今までの怒りや憎しみを、ねこにぶつけたかっただけかもしれない。ねこはその怒りや憎しみを生み出した当事者である。ぶつける動機としては、十分なのだろう。
「消えろ」
振り下ろされる腕。
ビチャッ
膝をついていたねこの体が、紅い雨の溜まった地面に落ちる。
翌日に登校すると言ったにもかかわらず、一日遅れてしまい、申し訳ありません。
この話の次回こそは、明日にでも登校するつもりです。
よろしくお願いします。
元ネタ ねこのSCPレストラン のYou Tubeチャンネル
https://youtube.com/channel/UCsUE9GXFRsb1ISA2PE0q96A
元ネタの元ネタ ねこですよろしくおねがいします
作者: Ikr_4185
作品名: SCP-040-JP - ねこですよろしくおねがいします
リンク: http://scp-jp.wikidot.com/scp-040-jp
CC BY-SA 3.0
恐界
作者:Mandrej
作品名:SCP-130-DE - 恐界
リンク:http://scp-jp.wikidot.com/scp-130-de
CC BY-SA 3.0
この作品はCC BY-SA 3.0に準拠しています。
ねこはいました。ありがとうございました。




