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ねことユイレのレストラン

ねことユイレさんの他愛のない日常の会話です。

 「ねこちゃん、今日も来たよ!」


 扉から元気に入ってきたのは、ブロンズ色の髪の毛、赤い双眸の元気な女の子。


 「ユイレさん……いつも触れていませんでいたが、いつも私のお店に来て、財団のお仕事はどうされているんですか?」

 「あれ?私言わなかったっけ?」


 少女は頬に指をあて、考え込む仕草をする。端的に言って、かわいい。だけどそれを口に出すわけには行かない。なぜならキャラ崩壊するから。


 「ねこちゃんのレストラン、財団の調査対象になってるんだよねぇ」



 財団。SCP財団。

 ユイレちゃんが勤めている組織であり、私のような異常性を持つ生物や物品を確保、収容、保護する活動を世界的にしている。


 「ユイレちゃ……さんが調査にあたっている、と言う事ですか?」

 「そうそう!おまけにここにはたくさんのSCPのお客さんが来るし、SCP料理が出てるし、財団にとっては格好の調査場所なの」

 「お客様として来るSCPの異常性の危険度も下がっているので、ユイレさんのような一般人でも調査ができると」

 「さすが、ねこちゃんは頭がいいね〜」


 他愛のない会話。

 それが私にとっての宝物。

 こうしているだけで、私は私を認識できる。


 昔はただ無差別に人間に取り憑いていた私も、人間らしい自我を持ち、レストランを経営し、こうしてユイレさんと会話ができる。

 心を閉ざし、SCPとなってしまった人の心を、このレストランを通じて癒やすことができる。


 「そういえば、昨日財団のDクラス職員さんがご来店になったのですが」

 「えっ?」

 「ユイレさんとすれ違ったのですが……お気づきになりませんでしたか?」

 「昨日は他の仕事が多くてやっと来れたから……でもDクラス職員がここに来るなら、担当の私に連絡が来るはずなんだけどなあ……?」


 また頬に指を当てている。かわいい。ユイレさんの髪……おっとこれ以上はまずい。


 「SCPに飲み込まれたDクラスの方だったのかも知れませんね。さ、ユイレさん。カウンターで立っていないで、椅子に座ってください。今日はレモネードをお出ししますよ」

 「いつもありがとう!」


 私の方こそ、とは言えない。キャラ崩壊の問題うんぬんではなく、私が素直じゃないから。

 他のお客様の脳内には入っているのに、ユイレさんの脳内には入り込めていない。


 「随分とDクラス職員さんへの執着が軽いようですね」

 「うん……」


 予想外にも、ユイレちゃんのリアクションは重かった。

 いつもならもう少し食いついてくるのだが……。プライバシーに触れてしまっただろうか。


 「私……あまりDクラス職員について、考えたくなくて……。ううん、変な意味じゃないんだけど、なんと言うか……」

 「……放送室」


 その言葉を口にした途端、ユイレちゃんの肩が一瞬震えた。


 「そういえば、このレストランの放送室のレコードが故障してしまって、音楽が流せないのですが、直し方はご存知ですか?」


 とっさに誤魔化す。やはり、ユイレちゃんとあのDクラス職員さんは関係があった。

 だが、これ以上踏み込むのはいけない。


 「ごめん、私機械系は得意じゃなくって、ごめんね」


 私が踏み込んだにも関わらず、ユイレちゃんはいつもの様に一点の曇もない笑顔でそう私に返した。


 「その気になれば、ここは私の領域なので直せるのですが……疲れるのがちょっと」

 「確かに、ねこちゃん体力無さそうだもんねー」

 「どういう意味ですかユイレさん」

 「ごめんごめん、なんでもない!」


 ……もしかしたら、この他愛のない毎日も、長くは続かないかもしれない。

 ふと、そんな疑念が脳裏をよぎる。

 それをすぐにそれをしまい込む。

 ユイレちゃんがいないこのレストランなど、ありえない。


 この世界が一巡ごの世界だとしても、変えられた世界だとしても、今この瞬間と、ユイレちゃんは確かに存在する。

 誰もこの「ねこ」の存在理由を証明する事はできないが、今この「現実」と「ユイレちゃん」は確かに、確実に、存在するのだ。


 「ねこちゃん」

 「なんですか?」

 「もし、ねこちゃんがSCPや、SCPに飲み込まれてしまった人がをこのレストランにつれて来れるのなら……。いや、なんでもない。」

 「そうですか」


 ユイレちゃんも、私も、如月工務店の放送室に飲み込まれてしまったDクラス職員さんも。

 もし他の人間にとって、存在意義がなくとも。

 このレストランに、あの放送室に。

 この、地球に。

 確かに、そこに存在するのだ。


 もしこの世から消えたとしても。

 それを覚えている人が一人でもいるならば。

 それが「存在した」と言う証明になる。


 今日も、明日も、明後日も。

 私はこのレストランに訪れてくださったお客様の事を覚える。

 この世から突き放されてしまった心なきお客様も。

 私が覚え、その存在を、証明する。


 わたしはねこです。どこにでもいます。あなたのあたまのなかにもいます。ねこはあなたをみています。あなたをおぼえています。だから、げんきをだしてください。いやなことがあったときは、わたしのおみせにきてください。きっと、あなたのげんきがでるようなおりょうりをつくってあげます。ねこでした。ありがとうございました。

この小説を最後までよんでくださったこと、感謝申し上げます。これからも続く予定ですので、そちらもよんでくださると作者はよろこびます。ありがとうございました。ねこはいました。

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