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ねこですよろしくおねがいします

ねこの二次創作です。CC-BY-SA 3.0に準拠しているはずです。

 もしも誰かがこれを読んでくれているのなら、俺は幸いだと思う。

 長年閉じ込められていた俺にとって、幸せを他人と分かち合うこと以上の幸せはないのだから。




 「…久しぶりだな、お嬢ちゃん」

 嗚呼、よかった。まだ喋り方を忘れてはいなかった。

 そう言えば、あの時もこんな感じのセリフを言ってたっけな。

 『っ……!』

 お城ちゃんの息をつまらせる声(音か?)が聞こえてくる。

 「……元気だったかい?」

 まだ、他に言いたい事は山ほどあった。でも、お嬢ちゃんとは長くは話せない。

 あと一分でもすれば、俺はお嬢ちゃんの大切な人を奪う事になってしまう。

 『はいっ……!』

 お嬢ちゃんのその一声は、なんとか絞り出したような一声だった。今にも号泣しそうな声だった。

 「なら、結構だ。俺も元気だったよ。なにせここでは腹も減らねえし、眠くもならねえ。おまけに歳もとらないと来た」

 かくいう俺も、少しでも気を緩めれば涙腺から水が溢れ出そうだった。

 今、お嬢ちゃんにそんなくだらない事情で心配をかけるのは絶対にだめだと思った。

 『あと10秒だ』

 お嬢ちゃんについてる女の声が聞こえてくる。

 急がねば。伝えなければならない事がある。


 「俺はマトモな人生は歩めなかった。でも、人生には必ず、幸せな時が訪れる。俺にとって、それは今だ。お嬢ちゃん、あんたともう一度話せたこの瞬間、俺は、本当に、幸せ、だ」


 最後の方は、言葉がとぎれとぎれになってしまった。

 目から大粒の涙が溢れ出す。


 「じゃあな、お嬢ちゃん」

 『さようなら。ありがとう』

 

 扉が閉まる音がした。


 涙が溢れて止まらなかった。

 悲しかった。嬉しかった。幸せだった。

 それ以上、何もなかった。




 ドアが開いた。

 放送室の、ドアだ。

 その事実に、俺は固まってしまっていた。

 「あ?」

 それは、白かった。

 白い髪に、白い目。

 これまた病人のように白い肌。

 そして頭には、ねこのような耳がついていた。

 それに対して、その装いは黒いスーツ。それはレストランの接客スタッフを思わせた。


 「はじめまして。ねこと申します」


 『ねこ』は、その白い双眸で俺の目を見つめながらそう言った。


 「この度はわたくしが総支配人となるレストランが開店いたしましたので、その宣伝に参りました」

 「あ、ああ?まずは座れよ」


 とっさに放送室にある適当な椅子を差し出すが、ねこは「お構いなく」とそれを断った。

 ねこに聞きたいことは山ほどあったが、こいつにはなにを聞いても何も出そうになかった。


 「遅れましたが」


 と言い、胸ポケットから何かを取り出す。名刺か?

 「改めまして、わたくし、この度開店いたしました『ねこのSCPレストラン』の総支配人、ねこと申します」

 と、笑顔で名刺をこちらに差し出す。


 さっきまでその雰囲気に飲まれて気が付かなかったが、ねこは美人の部類に入る容姿をしている。

 というか、このねこは個人的に笑わないようなイメージだったのだが……。

 まあ、確かに名刺を渡すときのマナーは笑顔で、と言うのは社会人のルールだから、当然と言えば当然なのだが。


 「ど、どうも」

 「気が向かれましたら、ぜひ訪れてください。ねこはよろこびます。それでは、失礼します」


 そう言うと、ねこは一礼し、放送室のドアを開いて出ていった。

 「なんだったんだ……?」

 あいつも、ねこもSCPなのか?

 「SCPレストラン」は、俺みたいなSCP、もしくは影響を受けた人が行く場所……?

 いや、落ち着け。よくよく考えれば、俺はここから出られない。ねこがどうやって来たかは知らないが、どちらにせよ俺はそこに行けないのだ。


 「はあ……」


 自然にため息が出てしまった。

 ここに入って幾年たったか、もう覚えていない。

 最後の方は何も考えずに、ずっとぼうっと生きていた。

 どうやら俺はお嬢ちゃんとねこにあったせいで、人間と会う感覚が呼び戻されたらしい。

 何もないこの時間が退屈だと思ってしまった。

 

 暇つぶしとして、と言うか条件反射的に先程もらった名刺をみる。

 一般的な名刺だ。ただ、名前とその他の情報とそのレストランのロゴデザインがあるだけ。

 構成は一般的だ。こう言うやつではたいてい問題は内容にある。

 そこには、こう書いあった。


 総支配人 SCP-040-JP ねこ

 ねこのSCPレストラン

 ██県の旧██村の井戸小屋の井戸の中

 

 そこまでは正常……でもないのだが、まあおいて置いて、名刺には裏面もある。


 当レストランは移動が不可能なお客様にもご来店いただけるよう配慮をしています。この名刺を10秒瞬きをせずに見つめれば、あなたはもう、レストランにいます。


 「いらっしゃいませ。ようこそ、ねこのSCPレストランへ」

 「は?」


 そこはもう、レストランだった。俺は椅子に座っていた。

 アンティークレストランとでも言うのだろうか。壁には古き良き装飾が施され、床には赤いカーペットが敷いてあった。


 「先程お会いした方ですね。こんなにも早くご来店くださり、ねこはうれしいです」

 「あ、あ……」

 「こちら、メニューになります。お呼びの際はそちらの呼び鈴でお願いします」

 「どう、も」


 展開が早すぎて状況が全くつかめないが、とりあえず、周りを見渡してみた。

 ……美しい。

 このレストランに入った誰もがそう思うだろう。

 俺は何年もあんなところに閉じ込められていたのだから、なおさらだ。

 客は……今のところ俺だけらしい。


 メニューを開いて見る。

 ぱっと見てごく一般的なメニューだが……なんか変なモノが混ざっている。


 『0匹のイナゴ』

 『景気のいいケーキ』

 『コーヒーを一杯』

 『パパの贈り物』


 なんだコレ?

 極めつけに注意書きには、


 『当レストランでは、SCPを使用する料理の全てにねこのオリジナルの調味料を効かせていますので、知ったり飲んだり食べたりしたところで、死に至る事はございませんのでご安心下さい』


 などと書いてある。

 安心できると思ったねこの精神を疑う。

 死にたくても死ぬことが許されない恐怖と精神的苦痛の深さは、俺自身が一番知っている。


 料理はカルボナーラとコーラを頼んだ。

 今になって気がついたが、俺は長らく食事をしていなかった。

 フォークの使い方は覚えているだろうか?


 「こちらカルボナーラとコーラになります。ごゆっくりお楽しみ下さいませ」

 十何年ぶりに目の前に差し出された料理に、俺の唾液腺は反応しまくった。

 早く飯を持ってこいと、胃袋が叫んでいる。


 「いただきます……」


 右手にスプーンを持ち、右手にフォークを持つ。

 フォークでカルボナーラをすくい上げ、スプーンの上で巻き上げる。

 そして、口に入れる。


 「っ――」


 うまい。

 うまい、うまい。

 この世で一番、うまい。


 気がつけば、俺はカルボナーラを全てたいらげていた。




 コーラを飲み切り、一息つく。


 「ふう……」


 席を立ち、会計に向かう。

 このレストランでは、SCPは、代金の代わりにもう一度レストランに来る事が条件となる。

 それと、ねこが脳に入り込む事になる。

 メニューでコレを見た時は一瞬息を詰まらせたが、退屈な生活が少しでもにぎやかになると考えれば、対して悪い条件には思えなかった。


 「本日のご来店、誠にありがとうございました」

 「ああ、こちらこそ」


 瞬間、頭に何かが入り込む感覚がした。


 「なるほどね。これが代金かい」

 「脳で得た情報はねこともう一人のスタッフを除いて閲覧、使用はしませんのでご安心を。またのご来店、心よりお待ちしております。ねこはいます」

 「また来るよ」


 くるりと踵を返し、出入り口へ向かう。

 出入り口から、一人の少女が走って入って来た。

 特に言葉も交わさず、扉に手をかける。

 ドアを開けた瞬間、後ろから声が聞こえた。


 「ねこちゃん、今日はどんなSCPを紹介してくれるの?早く聞きたいよ」

 「気が早いですね、ユイレさん」


 その声は。間違えるはずもない。確かに、この声は。


 「お嬢ちゃん……?」


 次の瞬間、俺は放送室の中で座っていた。

 「……本当に、ありがとうよ。ねこ」

読んでいただきありがとうございます。続くかもしれないのでそれも読んでいただけると作者はよろこびます。ねこはいます。


今回使用したゲスト的なscp

http://scp-jp.wikidot.com/scp-544-jp

そのtale

http://scp-jp.wikidot.com/sinro-soudan

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