黒鱗轟雷
感想とかブクマとか評価あれば死ぬほど喜びますのでなにとぞお願いです。くださいませ。orz
「これはどういう症状なんだ。……病気?」
ガチガチと歯が震えて呂律が回らない。鳥肌が立っていた。……寒い。氷でも噛んだみたいに舌が痺れている。雨に晒されたとき以上に凍えるようだった。
「ま、魔力が体内で過剰に動いて意思に関係なく魔法が出る病気っす……。魔力欠乏になっても魔力を放出し続けて。それで、それで……!」
ノーチェの声が上擦っている。今にも泣きそうな目。引き攣った表情。昨日の笑顔が嘘みたいで、俺は震える腕を伸ばした。彼女の手を握り指を交える。手は火傷しそうなくらい熱かった。
「だいじょう、ぶ。まだ。落ち着いて……症状と、対処……方法を」
「ヨースケの適正は土と冷気、だから。その魔法が体を傷つけるっす。炎や電だったら……発症した段階で死んでたかもしれなくて、でも! 冷気もまずいっす。とにかく陽向に運ぶ――ッから!」
有無も言わせずノーチェが俺のことを背負った。触れ合う肌が熱でひり付く。――異物感。皮膚を裂いた石片はほんの少し動くだけでも神経を圧迫するような激痛を走らせて、痛覚が鈍く広がっていく。
「ッ…ありが、とう。太陽――当たってたほ、うが。身体が楽……だ」
(糞、痛え。痛い。気持ち悪い。外気が焼ける。内臓が締め付けて痛い。唾を呑み込むたびに突き刺すみたいに痛い)
胃が煮えくり返るようで何度も大きく息を吸った。喉にも石片があるのか、呼吸すると血が噎せ返る。
「ど、どうしよ……う。ヨースケ、凄い冷たいんすよ。氷みたいで……魔力も異常なくらい漏れて――嫌っ……すよ。こんなの。これじゃ――、ヨースケ、ヨースケが……!」
「……治療方法、は」
ノーチェは唸り声をあげて必死に思い出そうと苛立つ。鞭を打つように激しく揺れる尾。噛み締めていた唇は一瞬で赤く滲んでいた。
「ッそうっす! 魔力を抑制すればいいんすよ。もしくは魔法を不発状態にする状態異常に掛かれば症状が相当楽になるはずっす。……薬草があればきっと。さ、探してくるっす!」
「待、て。行くな。……ー! 落ち着け、って!」
ノーチェが生き急ぐみたいに密林の奥へ駆け出そうとするから、慌てて引き留めた。ぴしりと伸びた腕から鉱石が突き出てまた皮膚が裂ける。血がだらだらと垂れて凍り付いてしまった。
「ぁ、ぅあ……ぁ! よ、ヨースケ。腕が!」
けど彼女は立ち止まってくれた。呆然として開いた口も塞がらない状態だったけど、それでも焦って泣き出しそうな状態で離れられるよりはマシだった。
「今のノーチェを……行かせられない。戻ってくる時間を大まかに決めて、くれ。落ち着いて、警戒を――怠らずに」
「そんなこと言ってる余裕はないんスよ! このままじゃヨースケ死んじゃうんすよ!? なんでわかってくれないんすか!」
力強く地面を踏み蹴ってノーチェは声を荒らげる。静寂に満たされた密林を彼女の声だけが響いた。言葉が途切れると喉から這い出る血の味がする吐息と枝葉の靡く音しか聞こえなかった。
(……いつのまに鳴き声が消えたんだ)
悪寒は止まる気配がない。体は冷気にやられてガクガクと震えて視界が霞む。指先はかじかんで手足から突き出た石片が痛む。けどそれ以上に嫌な予感が肌を苛んだ。
「が――ッぁあああ……!」
発作みたいに頭が軋んだ。脈打つたびに脳の血管が苦痛を鳴らす。
「ヨースケ、ヨースケ! しっかりするっす! 冷気のせいで頭のほうまで痛みが来てるんすよ! すぐに私がどうにかするから。絶対死んだら嫌ッス! ヨースケと一緒じゃなきゃ嫌っす!」
(違う。違う……! これは病気のやつじゃない……!)
視界に広がる濃厚な緑に重なる近視感。埋め尽くす炎。耳を劈く轟音。一瞬先の未来がいくつも同時に記憶を埋め尽くす。――熱。煙の臭い。真っ黒な鱗。
「――俺は、今日だけで何回…………死んだ?」
もう間に合わないかもしれない。縋る想いで空を見上げる。雲一つない晴天。次の刹那、霹靂が目の前に落ちた。何条にも亀裂が走る地面。直撃した樹木がバチバチと勢いよく燃え上がる。
「うひゃぅ!? なんでこんなときに雷が――魔力の臭い? ち、違うっす! 自然の落雷じゃないッス! 【轟雷】っ!? 上位の雷属性魔法の!」
影が頭上を通り過ぎた。突風がノーチェの髪をなびかせる。バサリ、バサリと。すぐ目の前で響く大翼の羽ばたき。
「ヨースケ、ちょっと乱暴するけど絶対声漏らすなっすよ」
無理矢理引っ張られ倒木の影に転がり落ちる。おかげで咄嗟に身を隠すことができた。息を抑えて、激痛と倦怠感を押し殺す。
「黒翼竜……ッ! なんで今なんすか……! なんで……!」
尾のうねりが樹木を一瞬で薙ぎ倒した。土煙が舞い、木片が飛散する。
両翼の鋭爪が宙を撫でるだけで地面を抉り傷痕を残す。陽光を吸う黒鱗。バチバチと魔力が漏れて紫電を纏っていた。
「カロ……グルロロrrrr……」
爛々と蛍光する真紅の瞳。反してノーチェの蒼い双眸は光を褪せていく。瞬きもできなかった。
石片で血肉が抉れようが、熱帯雨林のど真ん中で吐息が白く染まろうが関係なく全神経が目前に向かう。漆黒のモンスターは悠然と俺達の前に降り立った。




