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表紙がプロローグのところにつきました。めっちゃいい絵なのですこいです。エタらない(宣言

 歩き続けてなんとか方向感覚を取り戻した。フグから逃げて迷いかけたものの、この事だけに関しては天気が怪しくなってることが幸いで、森の奥にまで吹き付ける風から、ノーチェが近場にある海を把握した。


 一度海岸付近にまで戻ったけれど、俺達が数日過ごした場所ではなかった。多分だが、砂浜を歩いた先にあった岸壁地帯より奥にあった砂浜だろう。


 海は濁っていて白波が打ち付けるたびに激しく飛沫があがっていた。風もつねに吹き続けていて、肌に触れると身体が勝手に身震いをする。ノーチェの白い髪が酷く靡いていた。


「さすがに雨が降りそうだな。もう俺でもわかる。雨っぽい臭いだ」


「けどおかげで風が読みやすくなったっすね。これならもう十五分ぐらい歩けば着く距離に良さげな崖があるっす。崖に向かうなら追い風に任せるっすよ」


 ノーチェはにへらと笑って踵を返して森へ戻ろうとする。あんな怪物がいた場所へ。俺は咄嗟に彼女の手首を掴んだ。


「……あそこも安全じゃないだろ」


「嵐になれば海岸にもモンスターがくるっす。地上の奴より獰猛で、餓えている奴が。雷雨に濡れて、モンスターと荒れ狂った波から逃げて森を彷徨うことになるっすよ」


 弱々しい力でノーチェは俺の手を握り返す。指先が冷たい。蒼い双眸がじっと顔を覗き込む。不安そうに。


(海については彼女のほうが詳しい。……それに)


「ごめん。どうしてもずっと砂浜にいたから不安になったんだ。漂着した先でホームシックか? ハハハ……」


(それに、彼女のほうが怖かったはずだ。あの奇跡じみた直観が無かったら――――あれは本当に奇跡なのか?)


 考え始めるとぐるぐると頭が真っ白になる。わからない。わからないことが多すぎるけど、きっと俺のやるべきことはノーチェを信じることだ。少なくとも彼女は俺よりも世界を知っている。モンスターと、海の恐ろしさを理解している。


「今度こそ新しい拠点になる場所を探すか。海から離れた場所で」


「っす! 夢のマイホームってやつっすね」


(それはなんか違くないか?)


 今一度鬱蒼とした森へ足を踏み込んだ。枯葉が沈む。乾いた枝が折れる。緑を塗りたくった草木のなかへ。ナイフを構える。嗚呼、けど頼りない。俺も理解したことがある。


(ナイフじゃどうにもならない。けどサラマンダーはもう二度と頼るな)


 武器が必要だ。頭がそう訴えかける。あの怪物を前にしたときの嫌な予感が身体全体に纏わりついていて胃が締め付けられる。


「降って来たな」


 ポツポツと小さな水滴が頬や肩に当たっていく。急に気温が冷えていくのが分った。心なしか、ノーチェの両翼が縮んでいる気がする。


「けど崖もあったっすよ!」


 視界の先、緩やかな傾斜の向こう。周囲に生える樹木と同じほどの高さの崖が聳え立っていた。垂直よりも角度がついていて洞窟とまではいかないが頭上から降る雨に濡れることはなさそうだった。日が当たらない所為か崖の真下は邪魔な植物もない。


 砂漠でオアシスでも見つけた気分で早足で駆けた。土もあまりなく剥き出しの岩場で、そそくさと足で落ち葉を払って虫を追い出せば寝るにも困らなそうだった。ノーチェが椰子の葉を編んだものを敷いていく。


 不安要素の蜥蜴も一度地面に置いた。彼女の魔法のおかげで眠っているようで、椰子の実の中に引き篭もっている。


「モンスターもいなそうだな。静かだ」


「っすね。本当に死ぬかと思ったっすよ……」


 ノーチェは乾いた笑みを浮かべて腰を下ろした。ゆっくりと息を吐いて脱力しながらその場で横になる。また魔力欠乏の症状が出ているのか顔色が悪い。蒼い瞳は充血しているし、朝は元気そうに跳ねていた尻尾もだらりと垂れていた。


「平気か?」


(また無理をさせた。とりあえず休める環境をもっと整えないといけない。虫が……鬱陶しい。火をつけるにもトカゲが自然に目覚めるのを待たないといけない。食料は……燻製でも作っておくべきだった)


 雨が本格的に降り始めた。熱帯雨林が白い霞みに染まって、突発的な強風が豪雨を横殴りにしていく。ざぁざぁと木々に打ち付けて雫が跳ねる。崖の下にいても問答無用で肌を濡らす。衣服が濡れる。


 崖から落ちる雨水は数分のうちに雫から小さな滝みたいに地面に打ち付け始めた。傾斜に沿って海へと流れていく。


「……ちょっと寒いっすね」


「けどこれで真水が手に入る。それに頭もろもろ洗うなら今だな。石鹸が欲しい」


(モンスターから逃げるために泥だらけになったし、そもそもずっと汗を掻いてて不快感しかない)


 灰から作るような方法があった気がするけどさすがに方法は……分からないな。チラリとノーチェに視線を向けてみたけれど、何かを察したように彼女も首を横に振った。


「ふふっ。確かにいい機会っすね。こいつが起き次第火を起こして、髪とかもろもろ洗いたいかもっす」


 雨が強くなるにつれて突風はさらに荒れ狂って木々を靡かせる。俺達の血やら汗を吸おうとしていた虫も吹き飛ばされたのか分からないが見えなくなった。晴れたら戻ってきそうだが。


 蜥蜴が起きるのを待つ間に空の椰子の実やペットボトルを置いた。勿体なくて近くの草木から大きめの葉を置いて出来る限り雨水をためていく。湖沼の水を煮沸するよりも安全だろう。


「本格的な雨雲っすねぇ。……あっ、この草食べれるやつっす」


 プチリと小さく葉を切って俺に渡してくる。楓みたいな形状をした葉で、あまり日の当たらない場所を中心に茂っている。


(ミントみたいな味だな。単体で食べるとむなしくなってくる)


 それでもウサギみたいに頬張りながらぼんやりと雨を眺め続けた。二時間ぐらいすると蜥蜴も起きたけれど、豪雨はさらに増すばかりで崖から文字通り降り注ぐ雨の滝はさらに音を立てていた。突発的暴雨スコールではないらしい。止む気配はない。

ビネガローチ

 ゴキブリモドキ目ビネガローチ科に属する昆虫の総称。世界中に生息するが南国において比較的体長が大きくなる傾向があり、10~36g.体長は2~5cmほどになる。本種は土の中や枯れ葉の裏。朽木の中を好んで5~20匹程度の群れを成して固まる。


 夜行性の雑食動物であり、夜になると単独で行動し餌を住処に運ぶことがある。地域によって食べるものが大きく異なり、枯れ葉や昆虫の死体、ミミズなどを好んで食べるものや果物、椰子などを食べるものがある。後者のほうが味は良い。


 刺激を受けると肛門腺から刺激性を持つ液を霧状に散布する。この液には同種への防衛信号にもなり、近くにいるビネガローチも液を噴射する。小型の虫であれば有毒であるが人間に害はない。臭いは酢に似ており、嗅覚の良い動物は近づこうとせず、直接散布された際は藻掻きながら逃げたという記録がある。


 刺激液の散布が行われた場所にビネガローチは一定期間近づかなくなる習性が確認されている。しかし防衛行動はこれのみであり、多くのゴキブリの特徴としてあげられる足の速さや飛翔行為は確認できていない。翼はあるが退化している。


 飛翔能力を全く持たない本種は、地表を歩き回るのみで異性と出会わなければならない。フェロモンの役割が強いと考えられている。


 天敵は陸生の蟹やタコ。幼生のポーラーワームなどである。彼らは刺激臭の影響を受けず、強い臭いに惹かれて捕食行為を行う。


 人間とのかかわり。

 本種はグロテスクな外見と刺激臭を放つという二点から害虫扱いされている。対策としてあげられたのが彼らの発する臭いに似たものを家周りに撒くことであったが、これらの臭い。特にレモンなどの柑橘類が他の害虫をも遠ざけるという結果となり、衛生面、モンスターの習性などを観察する重要性が確認されたこととなった。


 また、ビネガローチは意図して果物のみを食べさせることで美味になるという話があり、一部の金持ちが道楽で育てていることがある。足も遅く脱走する危険性がないので管理はしやすい。

 

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